【小阪裕司コラム第281話】1日のお客さんを減らすと売上が上がる!?

【小阪裕司コラム第281話】1日のお客さんを減らすと売上が上がる!?

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第281話】1日のお客さんを減らすと売上が上がる!?

 前回、「自動釣銭機」を自分たちの側に向け、お客さんとの会話の時間と余裕を作り出した文具店の事例をお伝えした。それがビジネスの成果を生んだことも。そこで今回は、まったく別の業界、別の方法で、同様の成果を手にした例をお伝えしよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、あるエステサロンからのご報告だ。

 同店ではこれまで、お客さんが退店してから次のお客さんをお迎えするまでに、ギリギリの時間しか確保してこなかった。その間にベッドメイク、片づけなどをしていると、すぐに次のお客さんを迎える時間となる。店主自身は十分に休憩も取れない状況だったという。

 それが無理もないのは、エステサロンは仕事柄、一度に何人も施術することができない。その上で、営業時間中に一人でも多くのお客さんに対応することが売上を左右するとされているからだ。彼女が以前勤めていたときも、会社からは、そういう指示が出ていた。インターバル20分で、多い日は1日8人をこなしていたそうだ。独立後も1件でも多く予約を取りたい気持ちが強く、インターバルの時間を増やすと売上が落ちると思っていたという。

 そんななか、彼女が今回試みたのは、インターバルの時間をこれまでより30分も長く取り、時間と余裕を生むこと。そしてその余裕の中で、お客さんとゆっくり過ごすことだった。実際に行ってみると、それまでとは大きな変化が幾つもあった。例えば、これまでは薦めたいメニューや化粧品があっても時間がないからと諦めてしまっていた。それがじっくりカウンセリングできるようになったことで、次回以降の施術を計画でき、回数券の販売や化粧品のお薦めにつながった。

 また以前ならこちらも気が急き、お客さんも気を遣って帰り支度が早くなっていたところ、互いにゆっくりになり、たわいないおしゃべりが距離間を縮めることとなった。もちろん今回の取り組みにより、1日に受付できるお客さんの数は減った。しかし実際のところ、売上は減るどころか上がったのである。

 お客さんとゆっくり対話する。その時間と余裕を、あえて効率を捨ててでも生み出す。それは、効率だけの視点から見れば単に非効率なことだ。しかしビジネスをもっと違う視点から見れば、ビジネスに収益も含む豊かなものを生み出すことなのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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