【小阪裕司コラム第282話】ビリケンがもたらした楽しさの連鎖
【小阪裕司コラム第282話】ビリケンがもたらした楽しさの連鎖
あなたは〝ビリケン〟というものをご存じだろうか?ユニークな姿と表情をした可愛らしい神様で、足を前に投げ出したポーズで座っている姿が定番だ。その足の裏を撫でるとご利益があるとされている。アメリカ生まれの神様だが、日本ではなじみ深く、大阪のアイコンにもなっている。今回は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のお店での、ビリケンにまつわるお話。
ある雑貨店でのこと。元々同店では売り物としてビリケン像を売っている。だが、店主はあるとき気づいた。足の裏を撫でるとご利益があるということなら、ただ陳列するだけでなくお客さんにも撫でてもらってはどうか。「ついつい神頼みしたくなる世の中だし、ほっとして気持ちが明るくなるきっかけを作れたらいいな」と。
そこで、楽しさをお客さんと共有するべく、撫でてもらうのは会計時に、とビリケン像をレジ横に。「ビリケンさんの足の裏を撫でるとご利益があると言われています」のPOP(店頭販促物)と共に置いてみた。
すると、ほとんどの方が会計の際に撫でていくようになった。店主らが商品をレジ袋に詰めている間に、ニヤニヤしながら撫でていくのだ。そのタイミングで、「いいことありますよ!」と声かけをすると、お客さんは、「本当?」と満面の笑みになるとのことだった。
その後彼女にこの取り組みを当会に報告いただき、全会員で共有したところ、会員のある中華料理店主が目を留めた。「すごいな。めっちゃ楽しそう」。早速ビリケン像を取り寄せ、POPはそのまま真似させてもらい、店頭に設置した。最初はなかなか撫でる人が現れなかったが、ある日来店したファミリーのお客さんが撫でてくれた。店主はそれを見逃さず、一瞬鍋を持つ手を緩めて「きっと いいことありますよ~」と遠くから笑顔で声をかけた。それからは、多くのお客さんが撫でてくれるようになったとのことだ。
実はこの中華料理店主は、当会に入会してまだ3カ月。最初に行ったことのひとつがビリケンだ。しかしそれらのことだけで「お店が変わって来たように感じられて、私自身が楽しくなりました」と店主は言う。帰り際にお客さんが笑顔を見せてくれることも増えて来たと。楽しさの連鎖。それが、店も自分も変えていく。どんな一歩でもいい。「楽しそう」なことに踏み込んでいったなら。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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