【小阪裕司コラム第47話】なぜ今この酒屋に6倍の人が来るのか
【小阪裕司コラム第47話】なぜ今この酒屋に6倍の人が来るのか
今、私が主宰しているワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)では、この新型コロナ情勢下で奮闘している方々の報告が続々届いている。
そのなかの酒屋さんからのご報告。今日のコラムのタイトルには「6倍の人が来る」とあるが、店主はことさらに集客を仕掛けたわけではない。まだ緊急事態宣言が出る前の3月のこと、今日のお客さんの心の状態をおもんぱかったことが、自然と通常の6倍のお客さんが来店することにつながった。
そのなかの酒屋さんからのご報告。今日のコラムのタイトルには「6倍の人が来る」とあるが、店主はことさらに集客を仕掛けたわけではない。今日のお客さんの心の状態をおもんぱかったことが、自然と通常の6倍のお客さんが来店することにつながった。
具体的にはどういうことか。
同店では、普段からお客さんにダイレクトメール(以下、DM)を送っている。それは、単に商品のセールスではなく、ワクワク系の方々が多く使う、ニューズレターという絆作りのためのもので、そこにセールスレターも同封する。
そういうものなのだが、今回、送付するにあたって店主は考えた。
例えば、宛名面の下のスペースに普段なら何気ないあいさつ文や「雑学クイズ」のようなものを書くのだが、今回はこういう情勢下だ。お客さんも不安だったり気持ちがなんとなく暗くなったりしているだろう。
ならば今回は、そういう気持ちに寄り添った文章を書こうと。そこで「新型コロナウイルスの騒動で世の中心配ばかりです…。どうかお互いお体に気をつけて頑張りましょうね。早く皆が安心できることを願ってやみません」と書いた。
またもうひとつ、いつもなら商品の訴求文を書くセールスレターの表にも、「こんなときだからこそ、心豊かに楽しく、あったかい時間を過ごしたいです。その一助になれば…」という文章から、商品につなげていった。
すると、投函するやいなや、お客さんは反応した。来店客が増え、しかも少なからぬお客さんがそのDMを持って来るのだ。
その数、通常の6倍。結果、家飲み需要が増えたとは言われるが、店全体としてはコロナ情勢の悪影響があった3月の売上のなか、しかし、このDMで提案した商品群に関しては、日本酒131%、ワイン122%、リキュール346%と大幅な伸びとなった。
これが意味するところは何だろうか?
今回の彼のDMは、ことさらに集客を仕掛けたものでもなく、凝った文面でもない。
しかし、お客さんの心に響き、来店・購入という行動を生んだ。
何がそのカギだろうか? 私の周りでは今、この情勢下、お客さんと“つながる”、お客さんの“心に寄り添う”ことをいつもより一層重視し、活動している。
元々そこを重視するワクワク系ゆえ、彼らはそのやり方も知っている。
そういう活動が今、そして後々何を生み出すか、彼らはよく知っているのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。