【小阪裕司コラム第48話】なぜこの“はからい”が人を動かすのか
【小阪裕司コラム第48話】なぜこの“はからい”が人を動かすのか
前回、私が主宰しているワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の、このコロナ情勢下での酒屋さんからの実践報告をご紹介した。
まだ緊急事態宣言が出る前の3月のこと、お客さんの不安な気持ちに寄り添ったダイレクトメールを送ったところ、いつもの6倍の反応があったというものだ。
なぜこの“はからい”がこれほど人を動かすのだろうか?
ここで、類似の例をご紹介しよう。あるキャンプ場経営とキャンプ用品通販の会社だ。同社では、「コロナ不安の今だからこそお伝えしたいコト」と題し、次のようなブログ記事を配信した。
社長の挨拶に続き、コロナのことにしばらく触れ、そこから「我々はアウトドアを愛する仲間である」「自然の中で過ごす術を知っている」こと、だからこそ、「自然というものは思い通りにいかないこともあるが、それでも我々は臨機応変に対応し、その場を『乗り切れる』ことを知っている」等々のメッセージを発信したのである。
これには、多くのお客さんが反応した。
この内容に共感したという声が多数だが、なかには
「いつもはメルマガなど読まずにスルーしていたのですが、
今回のものはとても元気が出る内容だった。お礼申し上げます」
「3年以上も前の購入にも関わらずメールをいただき、
考えさせられたので返信させていただきました」
などの声もあった。
このようなBtoCの例だけでなく、BtoBの例もある。ある電話代行・経理代行の事業を営む会社では、「コロナに負けるな!」と題し、自社のHPに、契約いただいている各社のリンクを張らせていただくという企画を行った。
以前、内容としては同様の企画を行ったときはほとんど反応がなかったが、今回は違った。すぐさま数十件の申し込みがあり、激励だけのメールもいただいた。
なかには、「今、各社苦しみながら試行錯誤しているなか、こういうエールを送るような積極的なメールをいただくと、御社と契約させていただきよかったと各社思うだろう。これからもよろしくお願いします」という内容の返信もあった。
なぜこのような“はからい”が人を動かすのか。それは、人が人との“つながり”を求める生き物だからだ。そして今、この非常事態の下、人はより強くそれを求め、大切さに気がつき始めている。
私は、ビジネスにおける“つながり”の重要性をもう30年近く説き、20年間科学的にも研究しているが、しばしば「精神論」と誤解され、実行する会社は未だに少ない。
しかしそうではない。これは、ビジネスが成り立つための重要なメカニズムに関わることだ。そして「新たな社会」へ向け、強化すべきビジネス活動のひとつなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。