【小阪裕司コラム第49話】緊急事態宣言に応えて前年比150%の飲食店
【小阪裕司コラム第49話】緊急事態宣言に応えて前年比150%の飲食店
以前このコラムでご紹介した飲食店から、4月の取り組みのまとめレポートが届いた。
結果から先に言うが、なんと要請に応え、午後8時までの営業下であるにも関わらず、売上は前年比150%だというのである。果たして彼は何をやっているのか。
今、私が主宰しているワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)には、コロナ情勢下での各社の実践報告が続々寄せられており、その数、すでに百数十件。
同店からの報告もそのひとつだが、この店は、おまかせコース料理のみの完全予約制のレストラン。そもそもディナーが勝負の店だ。
「予約が取れない店」として名をはせていたのだが、緊急事態宣言以降キャンセルが続々と入り、先々の予約がゼロになった。
そのときの心境は、今回いただいたレポートの冒頭部分にこうある。
「金融公庫に融資の申請などしていたものの、『ここまで減ると何ヶ月持ち堪えられるか?』と焦りました」。
しかし彼は動いた。
この緊急事態宣言中、当会がほぼ毎日開いているオンラインミーティングに参加し、会員さんの同業者とも意見交換しながら「『落ち込んでてもしょうがない、やれることをやろう』と前向きな気持ちに」。
そして、10日間ほどじっくり商品を練って、1個3千円、8千円という超高級弁当を開発。主に既存客に向けて販売を開始したところ、この売れ行きが爆発、前年比150%の売上の原動力となったのである。
ところで、この成果のポイントは、高級弁当を作り、売ったことだろうか?
今、巷の飲食店は、テイクアウトやデリバリーなどでこの情勢下頑張っているが、それさえすれば、売上が前年を上回り、5割も伸びるだろうか? この成果の源は、同店が10日間かけてじっくり練った商品(しかも高額)に、待ってましたとばかり反応してくれる“顧客”がいることだ。
ワクワク系では「絆顧客」「ファン顧客」と呼ぶが、同店はこれまで地道にそういう顧客を育て、つながりを深めてきた。
私は、3月3日の緊急ウェビナーで、「顧客とのつながりを強化せよ!」と発信したが、今回彼は、弁当を発売するまでの間も、SNSや動画などでつながりを強化し、開発過程も共有した。こういうことがすべて生きて、この爆発的な結果となるのである。
店主は言う。今回の結果は、顧客が何を求めているか、この情勢下と自社のリソースでどんな形ならそれを提供できるかを考えたゆえだと。また今回、「助けたいから」購入してくださった方もたくさんいて、ありがたい限りだと。
どんなときも、商いに収益をもたらしてくれるのは顧客、そして彼らとの深いつながりなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。