【小阪裕司コラム第53話】こういう時勢だからこその心遣いが

【小阪裕司コラム第53話】こういう時勢だからこその心遣いが

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第53話】こういう時勢だからこその心遣いが

コロナ情勢が緊迫感を増していった3月から、緊急事態宣言下の4月、5月。そこでのワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)を実践する方々、各社の奮闘ぶりが、今私の手元に数百件のレポートで届いている。

なかでも多いのは、この機にお客さんやステークホルダーとの絆を深めたというものだ。
今回はそのなかの、サプリメントの製造・通信販売会社からのものをご紹介しよう。

同社は、オンラインでビジネスが完結する通販会社ではあるが、今回、長く利用いただいているお客さんに、あえてアナログな自家製ハガキを郵送した。

宛名面は、コロナの話題から入り、「こんなときこそ楽しんでいただきたいと思い、昨年から薬剤師がたしなんでおります己書(おのれしょ)でカレンダーを作成してみました。(中略)ふとした瞬間にお地蔵様とともに“にこっ”としていただけると幸いです」と綴られたもの。

裏面は、その己書によるほのぼのしたお地蔵さんの絵が描かれ、カレンダーにもなっている。これをお出ししたところ、お客さんからの「お気遣いのハガキに感動!!薬剤師さんからのカレンダー付ハガキ!お地蔵様の絵に癒されました」という返信をはじめ、多くの方からの感謝の声があった。

また同社はこの期間、お客さんとだけでなくステークホルダーとの絆も深めた。例えばそのひとつは、配達、集荷、納品に来社する取引先の方々へのものだ。

玄関に社長の似顔絵のボードを立て、「配達、集荷、納品に来てくださっているみなさんへ」として感謝の言葉を綴った。これにも、「入口のメッセージ見ました!元気が出ました!」など、多くの喜びの声があった。

他にも、内職業者の方々へ、資材を送る際、こういう情勢下でも変わらず作業をしてくれていることへの感謝の手紙を添えることもした。これにもまた、「お心遣いに大変感動いたしました。作業者も手紙を見て喜んでおりました」などの喜びの声があった。

こういう時勢だからこその心遣い――それは、結局企業に富をもたらすものだ。例えば同社ではこの5月、定期購入に切り替える客数が過去最高となった。

同社のような商品の通販では定期購入者を増やすことが重要だが、今回はそのための促進キャンペーンは行っていない。
また当然ながら、今回の心遣いはそこを狙ったものではない。にも関わらず、である。

そして、ここでいう“富”とはこのような直接的な収益増だけを指すのではない。関係者らの、同社に対する信頼、愛着、感謝の念。それらがもたらすものは、お金に換算できない価値あるものなのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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