【小阪裕司コラム第57話】美容師がなぜFPの資格を取るのか
【小阪裕司コラム第57話】美容師がなぜFPの資格を取るのか
近年、私が主宰しているワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)では、会員企業の多くがビジネスモデルの変革に取り組んでいる。
その理由は、私が彼らによく使う言葉で言えば「ほとんどの業種でビジネスモデルの賞味期限切れが起きている」からだ。今日ご紹介するのはその取り組みメンバーである美容院店主からのレポートだ。彼の言葉をそのまま追ってみたい。
「(実践会に)入会してからは絆創りを中心に人にフォーカスを心掛けてやっていくうちに、やることはドンドン増えていきましたが、愉しく仕事もでき、売上げも順調に上がっていきました」。
「実は創業当初から2回値上げをしているんですが、それも入会していなかったら難しかったと思うし、値段を上げる事に不安や恐怖を感じていたかもしれません。
実際はお客さんもすんなり受け入れてくれた感じもあり、しかも1回目より2回目の値上げの時の方がすんなり感も増してたような感じです。
(値上げ前はさすがに悩みましたがお客さんと自分たちの為に値上げしようと決意したのが、そんなに悩まなくてよかったんじゃないかって位お客さんはすんなりでしたw)」
「そして、入会して他の経営やお金の勉強をする内にFP(ファイナンシャルプランナー)に興味を持ち、FP(資産相談までいかなくてもお金のちょっとした知識を教えたり相談する)の仕事とワクワク系の美容師(絆創りをして顧客と信頼感を築けて定期的に会える関係)の仕事は相性がいいんじゃないか?
と思い、空いた時間や入院中の時間を使い勉強し、FPの資格を取りました。
(教えるんなら資格があった方が信憑性があるし、今後塾みたいな形で子供やその親などにもお金や経営など学校で教えてもらえないことを教えられるかなってのも考えて資格を取りました)」
この話に、美容院とFP?と違和感のある方がいるかもしれない。しかしワクワク系の現場では今、彼のような経営の土壌づくりとその上に立つ、旧来のビジネスモデルからはちぐはぐに見える商品・サービスの提供が活発に進んでいる。
もちろん奇をてらっているのではなく、彼のように必然的にそうなるのだが、旧来の見方から見た違和感ゆえ、彼らは往々にして業界では奇異に見られる。
しかし実は、当の顧客はまったく気にしない。どころか、彼が言うように「絆創りをして顧客と信頼感を築けて定期的に会える関係」ゆえ、大いに喜ばれ、そのサービス売上は伸びていくのだ。
そして“新たなビジネスモデル”とは、その先に浮かび上がってくるものなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。