【小阪裕司コラム第60話】商いでは、何をおいても
【小阪裕司コラム第60話】商いでは、何をおいても
前回、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)のある水産業の方からのご報告をご紹介した。
コロナ禍で初めて立ち上げた通販事業を通じて、絆のある顧客が生まれてきたお話だ。
絆のある顧客――それがどれほどのポテンシャルを持つか。このコロナ禍でのある店の取り組みから見ることができる。その店は、味噌蔵が経営する直売店。
来店客のおおまかな属性は、観光客4割、地元客6割。コロナ情勢が色濃くなってきた頃から、観光客はゼロに。地元客も動きが悪くなってきた。元々イベント集客や観光集客を得意としていたが、それはできないし、かといって地元に大々的にチラシをまくわけにもいかない。では、どうするか。
そこで生きたのが顧客リストだ。長年「顧客リストが財産」「顧客リストこそ収益源」と言い続けているワクワク系。同社もそれに取り組んでいるゆえ、4000名の顧客リストがあった。
単なる住所録ではない。普段から絆を育む活動をしている、絆顧客のリストである。
このリストに様々な働きかけを行うと、結果は出た。それを先に言うと、従来売上の4割を占める観光客分がゼロになったにも関わらず、前年比106%で着地できたのであった。
それだけでも素晴らしい成果だが、ここでさらにお伝えしたいのは、次のことだ。
同店では今回、4000名の顧客リストに対してダイレクトメール(以下、DM)を
打ったのだが、それを一気には行わなかった。毎週一定数のDMを分散して送っていったのである。
なぜそんなことをしたのか。
それは、お客さん、従業員のためにも三密状態を作らないためだった。
この考えに基づき、まずは4月中に一度テストDMを発送。そこでのDMの回収率やお客さんの買い上げ状況を見ながら、策を練っていった。
社長は言う。
「店が混みすぎず、また暇にならないように、そして狙った売上が作れるように、発送枚数、DMの発送日、訴求すべき商品、店舗オペレーションを練り直し、本番に挑みました」。
驚くべきことだと思わないだろうか。顧客リストをきちんと育てておくと、このコロナ情勢下でもこれほどまで狙い通りに売上が創れるのだ。
しかも今回、DMを連発したわけでもなく、売上に対するDMの制作発送コストは約2%だった。今回の結果を受け、スタッフからも口々に「もし顧客リストがなかったらと思うとゾッとする」「会員さんに支えられている」といった声が聞かれたという。
「ワクワク系に入会したら、何をおいても顧客リストを作ること」
これは、彼からのレポートの締めの言葉である。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。