【小阪裕司コラム第66話】「いい人」たちと共に商いを

【小阪裕司コラム第66話】「いい人」たちと共に商いを

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第66話】「いい人」たちと共に商いを

先日、ふと思い立って、このコラムの前身である日経MJ紙でのコラム原稿を見返していると、およそ13年前、2007年初頭の原稿に目が留まった。まずはそれを読んでほしい。

【ここから】私の知るお店や会社の人たちが多く口にする言葉がある。
「うちのお客さんは本当にいい人たちばかりなんですよ」というものだ。

それを聞き、初めはこう考えていた。私は人間関係のある顧客グループの育成を奨励しており、これを顧客コミュニティ作りと呼んでいるが、それを実践する彼らの人柄ゆえに、彼らのところに「いい人」が集まって来るのだろうと。

しかし最近、違うと気づいた。

たとえばある小さな町の店主も約千世帯の顧客はいい人ばかりと言う。
しかしこの町には千八百世帯しかない。
ここでは住民の半数以上がいい人なのだろうか。

またあるクリーニング店では、コミュニティ作りの結果クレームが激減した。

元来クレームが多い業界であり、この店でもお客さん宅に呼び出され罵詈雑言を浴びせられたこともある。
しかし今はない。では顧客がいい人と入れ替わったのか。
現在の顧客リストを見てもその事実はない。

またある会社では、コミュニティ作りを地元のPTAの活性化に活用してみた。

実践して三年目になると多くの人が精力的に活動に取り組むようになった。
以前は会合の出席率も悪く役員のなり手もなかったものが、今では役員の希望者が殺到し、時に抽選で決めざるを得ないほどだ。

では地域の住民が三年でがらりと入れ替わり、意識の高い人が増えたのだろうか。

私はこう思う。
こうしたコミュニティのメンバーになると、多くの人がいい人になるのではないか。
つまり、人それぞれの持つ人間性がよりいい形で出てくるのではないかと。

コミュニティには他人に優しく相手を思いやる気持ちがあり、それをベースにした生活に密着した営みがある。

商人が自社のために育むコミュニティが、結果的に思いやりに満ちた人の輪を作るとしたら、これは商売の持つ、とても素敵な可能性である。【ここまで】

この“気づき”は今やワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)では“当たり前”になった。

そしてこのコロナ禍でのワクワク系の現場を見ていると、まさに彼らはいい人たちに助けられ、いい人たちと共に、業種によっては厳しいなかでも、気持ちのいい商いを続けている。

人が「いい人になる」現象についても、脳科学の研究が進み確信が増しているが、これが起きるところ、お店や会社が生き残る道が開けていく。

こんな社会、こんなご時勢だからこそ、今、この営みが大切なのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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