【小阪裕司コラム第79話】売れているのは「小鳥」ではなく
【小阪裕司コラム第79話】売れているのは「小鳥」ではなく
ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のあるペットショップからのご報告。
長年小鳥に力を入れている同店だが、ワクワク系に取り組み始めて最近、以前にはなかったことが立て続けに起こっているという。
どんなことが起こっているかを聞くと、例えば次のようなことだった。
まずはセキセイインコを1羽だけお迎えしようと来店したお客さん。
そもそも手乗りインコは、人に懐いてもらうには1羽買いが基本。
同店でもお客さんにそのように伝えてきたし、このお客さんも元々1羽を求めていた。
しかし実際にお迎えしたのは2羽。
しかも、お店にいたときのカゴの状態そのままを、そっくり新品で買って帰った。
ちなみにこの2羽のインコには「がっつん」と「こっつん」という名前がついていたが、このお客さん、自宅に迎えた後も新しい名前はつけず、そのままの名前で飼っているという。
もう1件は、手乗りのオカメインコをお迎えしようとしたお客さん。
残念ながらそのとき同店にオカメインコはいなかったが、実際にお迎えしたのは3羽のセキセイインコ。
こちらも基本である「1羽の方がよく懐く」とご案内したにも関わらず、3羽。
しかもまたもや、お店にいたときのカゴの状態そのままを、そっくり新品で買って帰ったのであった。
そこで、何が起こっているのだろう?と店主は考えた。
最初の2羽のときは、「がっつん&こっつん」というネーミングがよく、ペア飼いのように思われて買われたのかな、とも思った。(1羽飼いを勧めてはいるが)しかし2件目では、店でつけていた名前は、飼い主によって新たな名前に変わった。
となれば、名前で売れているわけでもなさそうだ。しかもこれまでこういうことはなかったことなのである。
これは、ワクワク系では、「パッケージ化された価値」が売れている、とみなす。
一見「小鳥」が売れているのだが、お客さんが買っているものは「小鳥」ではない。ここが、今日の消費社会では重要なポイントだ。
私は20年以上前の著書の頃から「体験が売れる」「価値が売れる」という言い方で、この現象を伝え続けているが、今日一層この傾向は強くなっている。
そして同店が今ワクワク系を学び実践しているなかで、「体験を売る」「価値を売る」ことがどんどんできるようになっている。
その結果が今回の「これまでになかった」売れ方だ。
今回、「お客様が何をどう見えているのかに気づけたことが嬉しさになりました」と店主は言う。
お客さんが真に買っているもの、買いたいものを売れるようになること。
それが今日の商売の可能性を開いていくのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。