【小阪裕司コラム第95話】「ハガキ」というリアル
【小阪裕司コラム第95話】「ハガキ」というリアル
ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある教育事業を営む方からいただいたご報告。
同校は、地元の小中学生の子供たちを中心にプログラミングを教えている。
コロナ禍で学校は休校、ついには私塾など全てにおいて休校措置を取る指示が県から発令され、巷の多くの教室はオンライン授業に移行。
その中同校は、親御さんや生徒さんたちからの
「教室で先生から直接教わりたい! 教室に足を運んで先生とお話ししたい!」
との強い要望もあり、オンラインには移行せず、 2週間余り教室を閉鎖することとした。
しかしその間、放置したままでよいものか?
理由がどうあれ、関係性が断ち切られるのは 毎週楽しみに通ってきてくれている子供たちに対して良いことではない。
ではどうすればよいか?自宅待機で、友達同士で外では遊べない。
オンラインゲームでしかつながれない状況にある子供たちがワクワクすること
――そう考えたとき、もちろん頭にはSNSが浮かんだ。
それなら子供たちは慣れているし手早く確実。しかし、何だか温かみがない。
それよリもっと子供たちに「わ一っ!!」と喜びの歓声をあげてもらえることは何だろう?
――そこでふと思い出したのが、ワクワク系の実践者たちが「当たり前」に行っている「ハガキ」だった。
減多に手書きのハガキや手紙をもらうことがない毎日を過ごし、今では年賀状さえ出さない、受け取らない時代。だからこそ、もらい慣れないものをもらえることを新鮮に感じるのではないだろうか?
親御さん宛てでない自分宛てのハガキを手にした子供たちは、その瞬間、
- 「自分は忘れられていない!」
- 「教室、先生とつながっている」
- 「自分は教室や先生にとってスペシャルな存在なんだ!」
と感じることができるのではないだろうか。そう考え、ワクワク系的な工夫を凝らしたハガキを実際送ってみたところ、大反響。
- 「先生!ありがとうございます!」
- 「普段手紙を出さないから何度も返事を書き直して、いまだに出せていないみたいです!」
- 「大変喜んで、先生とお話ししたがっている」
- 「教室再開まで先生方も頑張ってください!」
と感謝と喜び、そして逆に 彼女らが励まされるような心温まるメッセージを、数多くいただくことができた。
「ハガキ」というリアル。
もちろんこのエピソードの背景には、同校が普段から「つながり」というリアルを大切にしてきたことがある。
デジタルな時代、人はより一層リアルを求めるようになる――それは私たちの、
現場からの確信である。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。