【小阪裕司コラム第96話】なぜ建築現場にポストがあるのか

【小阪裕司コラム第96話】なぜ建築現場にポストがあるのか

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第96話】なぜ建築現場にポストがあるのか

あなたがお店を経営しているとして、老朽化した自店を基礎から建て直すとしよう。
もちろんその間は休業となるが、あなたなら何をするだろうか?

休業中なのだから、何もしない、そうだろうか?

今日は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある豆腐店の取り組みをご紹介しよう。

ご当地で長らく豆腐店を営む店主、店が老朽化したため基礎から建て直すこととなり、現在は建築中、店は休業中だ。

しかしワクワク系の方々はそんなとき、単に休業しない。 今同店が行っていることは、建築中の現場にポストを立てることだ。

報告書には写真も添付されていたが、想像してほしい。
建築中の現場の脇に鉄柱があり、そこに透明のケースが設置されている。

ふたを開けると中に入っているチラシ(店主は「お便り」と呼んでいる)が取り出せるものだ。そしてここに一工夫ある。

店主曰く
「一般的には『ご自由にお持ちください』というシールが貼ってあると思います。私はこれを見て、持って行きたくなることはほとんどありませんでした」。

そこで彼の工夫は、そこにこう書いたことだった。まずは大きな文字で
「えっ?ここはナニ?」。
それに続いて
「ここに何ができるの???あれ、ここなんだっけ???あっ!お豆腐屋さんがない!!!と、思ったら、これをお持ちください」。

この工夫が功を奏し、お便りは今順調に減っており、補充する毎日だという。

この取り組み、決して奇をてらっているのではない。 ワクワク系では、常にお客さんとつながり、ひいては「顧客」としてストックすることを考える。

その観点からは、道行く人もつながりたい相手であり、過去に同店を利用したお客さんにも、建築中も忘れてほしくない。 そう考えるからこその、意味ある活動なのである。

ワクワク系では伝統的に同様の活動が盛んだ。

実践会20年の歴史の中でも、新規オープン前から道に面したウインドウに大きなひな人形を飾り、それをきっかけにつながりを作っていったカフェもあれば、新工場の建設現場に先ほどの豆腐店同様のポストをしつらえ、新工場の見込み客はもとより、工場周辺の住民とも絆を育んでいった例など、枚挙にいとまがない。

それらすべてに共通する最も重要なことは、常に人とつながろうとすること。
われわれが「つながり」をそれほど大事にする理由は、それこそが、揺らぐことなき商いの基盤だからである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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