【小阪裕司コラム第97話】ちょっとした、とてつもなく重要なこと
【小阪裕司コラム第97話】ちょっとした、とてつもなく重要なこと
先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のハンバーグレストラン店主からご報告をいただいた。
拙著『「顧客消滅』時代のマーケティング』にも登場する、ワクワク系取り組み後4年足らずで、自店のファンクラブ会員1万人を獲得した、そのレストランだ。
今回の報告は、最近の取り組みではない。
彼が実践会に入会した直後、なんとほんの4時間後に行った最初の取り組みに関するものだ。
それはPOP(店頭販促物)。なんでも、同店はこの度移転したのだが、旧店舗の後片付けをしていたら出てきたのだそうだ。
中身を見ると見出しに大きな文字で「筋金入りのハンバーグ好きに告ぐ」とあり、自分のハンバーグにかけるこだわりがこれでもかという感じで詰め込まれている。
本人曰く、「今見るとお恥ずかしい…何を伝えたらいいのか解からない…とにかく“全てを知ってほしい”がA4サイズの紙面全面に出ております」。
ところがその紙は「とんでもない所に貼られるのです」。
どこに貼られたのかと言えば、店の入り口。
別に「とんでもない所」ではないのではと思われる方もいらっしゃるだろうが、
ワクワク系を使いこなしている今の彼からするとそれは「とんでもない所」。
本人振り返って曰く
「誰でも通る場所=絶対見てくれると思っていた私は店頭に貼りました」。
しかし実際に貼ってみると「反応は0」「誰もみてねぇ、素通りの連続」だった。
こうした誤解は、ワクワク系に取り組む初期の頃には往々にして起こる。
そして反応がないことにがっかりし、ともすれば
「小阪さんが言ってたようなことは、レストランでは難しいのかな」
「自分の店には効かないのかな」
と間違った方向へ思考が流れていってしまうのだ。
だが彼にとってよかったことは、その後すぐに会員が集まる会合があったことだ。
そこに出席してこの話をすると、早速他の会員たちから質問の嵐。
それを一つひとつ当てはめて考え直すと、自分の誤解が見えてきた。
そこで同じ内容をハンバーグナプキンに書いてみると、次々と反響が。
それが彼にとって「ワクワク系おもしれぇ~」の気持ちにつながり、
その後の怒涛の学びと実践につながった。
まず強調したいことはここだ。ここで会合に出、質問にあい、誤解に気づき、
「おもしれぇ~」とならなかったら、彼の今日、1万人のファンクラブはなかったかもしれない。
人の未来を分けるものはこうしたちょっとした、しかし後から振り返れば、とてつもなく重要なことだったりするのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。