【柴崎一義の 整備業の実態を読み解こう!】第一話 「不正車検問題を考える」
カテゴリ:整備収益増大
【柴崎一義の 整備業の実態を読み解こう!】第一話 「不正車検問題を考える」
自動車の販売、整備業を営む我々として、昨今の不正車検問題は「やっちゃったか~」で済ませられる問題ではありません。しかもそれが大手カーディーラーで次々に発覚したとあっては、お客様の信頼を大きく損ねてしまったばかりか、国の車検制度の根幹が揺らいだといっても過言ではないでしょう。
そもそも不正車検といえば、走り屋さんがエンジンやサスペンションに改造を加えた車や、過積載を助長するような改造が施されたダンプカーを、違法に車検に合格させるのが定番でしたが、今回のカーディーラーでの摘発は全く別の危機感を感じるものでした。
そこで今回は一連の不正車検問題を少し注意深く見ていきましょう。
着目したのは2点です。
その① 「不正に至った理由」
処分を受けた整備士の話では、「過剰な入庫の常態化でお客様をお待たせしないよう、一部の点検、検査を省いた」とのことですが、もし本当なら本末転倒も甚だしく、本来の車検制度の目的を失念した危険な発想だったといえるでしょう。
最初は繁忙期の数台だとしても、いつの間にかサービス部門全体がそれを認めるようになり、更に営業も含めて店舗全体がその作業方法が普通と感じるようになる。そうなると雪ダルマ式にグループ内の全店に波及していく。こんなに怖いことはありませんね。
正規に作業していた他拠点のお客様から、不安を訴える問い合わせが入っているというのも納得できます。
この問題にはディーラー工場ならではともいえる、リコール作業の多発や新車架装、専業整備工場からのエーミング作業受注などという、入庫の多用化が背景にあるかもしれません。
処分を受けた整備士や検査員の肩を持つことはできませんが、業界が抱える労働環境や待遇の改善なくしては、自動車整備士を目指す若者がますます希少価値となってしまうのではないかと、別の心配も湧き出してきました。
その② 「指定工場への抜打ち監査のタイミング」
ご承知の通り、昨年4月から電子制御装置整備の認証制度がスタートしました。新型コロナウイルス感染拡大の影響はありますが、新認証資格への切り替えも加速し始めています。それに伴い、今年10月からの新点検基準への移行、2024年10月からのOBD検査の実施が現実のものとして見えてきました。
そうした中で、指定工場(民間車検工場)が果たす役割は更に大きくなると期待されています。まさにこのタイミングというのは、これから一層の重責を担う指定工場に対して、「従来からのコンプライアンスはバッチリですよね?」と問われているような気がします。
そう仮定するとこの流れは、ディーラー工場に留まらず、車検FCや多店舗展開の大手整備工場にも及ぶと考えておく方がよさそうです。
もちろん抜打ち監査用の対策という付け刃的なものではなく、入庫予約、作業工程管理、整備保証、納車説明、後日提案整備など、当たり前のことが当たり前にできているかを、社内で再確認する良い機会と捉えるべきではないでしょうか?
「気になる点」
現在の車検時における点検項目は56項目ですが、改めて見てみると急に不安になる項目がいくつかあります。
例えば「公害発散防止装置等」に分類されている「メターリングバルブの状態」「チャコール・キャニスタの詰まり、損傷」などは、排気ガステスターで検査して数値に異常がなければ、正しい作業方法による個々の点検がおざなりになったりしませんか?
まずは正しい作業方法を改めて確認するとともに、整備部門として作業手順と検査方法についてしっかり共有しておきたいところですね。
また「ウチは指定工場じゃないから」という油断も厳禁です。認証工場資格であっても、お客様に安全・安心を提供するという目的は一緒です。気を引き締めてお客様に選ばれ続ける会社にしましょう。
《参考となる書籍》
「自動車定期点検整備の手引」(国土交通省自動車局監修)
- 地元の整備振興会にて購入可能
「自動車検査員・整備主任者の完成検査の実務」
- 整研出版社のHPに購入方法あり
整研出版社 http://www.seiken-pub.co.jp/
コンサルタント 柴崎一義 Shibata Kazuyoshi
自動車メーカー直営ディーラーの工場長を経て、株式会社ロータス(ロータスクラブ運営本部)に入社。 経営教育事業部 部長 兼 事業開発部 部長を歴任。加盟企業の経営者向け、社員向け研修企画・施策立案に従事。整備業界の多くの経営者から絶大な信頼を得ている。 レンタカーアドバイザー、職業訓練指導員(自動車整備)、自動車検査員、自動車整備士など業界関連の多数の資格も保有し、業界情報に精通。 2020年に定年退職。より現場に近いステージで業界に貢献したいとの想いから、2021年よりチームエルに入社。