TCSにおけるフロントの重要性~お客様の声に耳を傾けるサービスフロント~
(※このコラムは、2017年6月のマンスリーレポートに掲載されたものです。)
「好き好んで車検をしたいというお客様はいないですよね。できればやりたくないけど、仕方ないから通す。
そんな、積極的には購入したくない商品を私たちは扱っている。だからこそ、内容的にも金額的にも安心できる車検商品を、早いタイミングで案内・予約いただくことが、車検入庫率を高める基本です。」
車検入庫率向上支援をさせていただく際に、よくこんなお話をさせていただきます。
ただ、一方で、購入したくない商品だからこそ、「本当に購入する必要があるのか?」「購入するのなら、少しでも気持ちよく購入してもらいたい。」そんな風に考えることが必要だと、私は思うのです。
「なぜ、車検を通すのですか?」
私の担当している店舗で、こんな話を耳にしました。
フロントの女性スタッフが車検入庫の受付の際、「すぐ乗り換えるから、車検は何もしなくてもいいよ。」と、お客様に言われたそうです。
そこで、このフロントの女性、「はい・・・。でも、でしたら、なぜ、車検を通すのですか?」と、恐る恐るお聞きしたそうです。
お客様曰く、「先月、新車に乗り換えようと思ってディーラーに行ったんだけど、納車が2ヶ月もかかるらしく、車検に間に合わなかったんだよ。」とのこと。
そこで、フロントの女性は笑顔でこう答えたそうです。
「でしたら、当店ならお客様のお力になれると思います。車検はやめましょう。」
そうして、1ヶ月間代車を出すことで新車を購入いただいたという訳です。「そんなことが!」と思うかもしれませんが、実際にあったお話です。
「なぜ車検を通すのですか?」
この彼女の一言が、仕方なく車検を通そうと思っていたお客様に笑顔をもたらしたのです。
彼女の業務は、車検整備受付がメインで、別に車販担当ではありません。
お客様が車検を通すというのだから、それで受け付ければ、何の問題もなく業務は全うできたはず。
何も恐る恐るそんなことを聞く必要はなかったのです。
でも、彼女は見逃せなかったのです。お客様の少し残念そうな表情を。
何故なら、彼女の自分の業務は単なる受付ではなく、お客様のカーライフをサポートすることだと教わっていたからです。
TCS(トータルカーライフサポート}の原点は、こんなところにあるのではないかと思ったエピソードです。
お客様の声を聞こう
TCS(トータルカーライフサポート}の必要性が業界で叫ばれ、現在では業務提携などを含めれば、おそらくほとんどの店舗が、車販・整備・鈑金・保険用品・カーケア等々の機能を保持し、機能的にTCSは完成しているはずです。
しかしながら、成功している店舗は多くありません。なぜでしょうか?
特に私が感じるのは、この機能をお客様に伝えるフロントの機能の弱さです。
先日、「サービスフロント研修」という研修を実施させていただきました。
そこに参加された方が、研修最初に口をそろえて仰っていたのが、「人と話すのが苦手。」ということです。
「だから整備士になったのに」というのも分からなくはありません。
ただ、普通にお話をしている分には皆さん、特に口下手というわけでもなく、普通におしゃべりのできる方々でした。
それなのに何が苦手なのかというと、実は「話す」ことではなく、「聞く」ことだったのです。
「お客様のため」といいながら、私たちは驚くほどお客様の事を知らないのです。
なぜ、車検を通すのでしょうか?
何のために修理をするのでしょうか?
このままだと、どのような不便が生じるのでしょうか?
それを知るにはもっともっとお客様のことを知る必要があるのです。
営業マンのような流暢なセールススキルが必要なわけではありません。
必要なのは前述の女性スタッフのような、「なぜ、車検を通すのですか?」の一言の勇気とお客様に喜んで欲しいという想いではないでしょうか。
店舗によってサービスフロントの体制は様々です。
整備・鈑金がそれぞれいる店舗、ひとりですべてを担当する店舗、また、フロントという明確な役割を設置していない店舗もあります。
大事なのは、お客様に接する人が営業であれ、フロントあれ、整備士であれ、誰であろうとお客様の話に耳を傾け、お客様の真のご要望に応えようという姿勢です。
「車検をお願いしたいんですが」と今日もたくさんのお客様が訪れます。
でも、その言葉の向こう側にはお客様毎にそれぞれの物語があります。
是非、その物語に耳を傾けることから始めてみましょう。
それがTCSの第一歩です。
チーフコンサルタント 大塚 隆博 Ohtsuka Takahiro
1989年に大手コンサルティング会社に入社後、様々な事業の立ち上げに加わり、自ら役員として会社経営した経験を持つ。自動車事業分野に転身後は、事業立ち上げのキャリアを活かし、主に新規事業の開業指導担当としてその実力を発揮してきた。冷静沈着で粘り強い指導スタイルは、クライアント企業オーナーからの評価も高い。各種ノウハウ開発のプロジェクトリーダーとしても活躍しており、随所に能力を発揮できるオールラウンダーである。