【小阪裕司コラム第136話】この店は何で選ばれているか

今日は、ワクワク系マーケティング実践会（このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会）会員の、北海道のチーズショップからのご報告。

先日来店したあるお客さんから「しばらく九州に住むことになりました」と話があった。遠く離れた九州、これでこのお客さんとの縁も終わりと思いきや、次いで出て来た言葉は、「（今後も）チーズを送ってほしいので、電話で注文します。お金は先に払っておきます」。そして驚いたことにその方は、そのまま現金20万円を置いて行ったのだった。

店主によると、この方は北海道産でなく、いつも主にフランス産のチーズを買われる方。東京の他社からも同じ商品は買えるし、この時代、ネットでいくらでも購入先は見つかる。九州までの送料も北海道からでは高くつく。しかしこの方は、そんなことは関係ないかのように、これからも同店を利用すると言い、さらに現金まで置いて行った。これはどういうことだろうか？

また、同店では年末にこんなこともあった。とある会社（食品加工製造業）からクリスマスギフトにしたいと、100セットもの注文が。以前からお付き合いのある会社ではあるが、こんな金額は初めてのこと。さらには、今年この会社が開く予定の、ワイナリーやレストラン、デリカテッセンを併設した店舗にも出店してほしいとの、大変ありがたい要請もいただいた。店主は、「何か意図して手を打ったからこういう結果が出た、というわけではないのですが…」と今、嬉しいとまどいの中にいる。

最近、私が事あるごとに説いていることのひとつが、「商売には２つの道がある」というものだ。これは、２０１３年に刊行された拙著『「心の時代」にモノを売る方法』に書いたことだが、それが今日話題になっているゆえ、改めて今説き直している。その２つの道とは、１つは「便利かどうかで選ばれる道」。もう１つは「意味があるかどうかで選ばれる道」だ。ここでその詳細を説明するには紙幅が足りないが、ここで問いたい。先のチーズ店はどちらの道で選ばれているだろうか？

店主は言う。「（２０１７年２月の）開業当時、『良い商品さえ売っていれば経営は成り立つ』という大きな勘違いをしていました。（中略）すぐに資金は底をつき、途方に暮れていた８月」、彼女はワクワク系の道を歩み始め、今日に至る。「良い商品を売る」ことはもちろん基本だ。しかしそれだけで選ばれるとすれば、それは最も便利な店だ。では同店に20万円を置いて行ったお客さんは、同店に出店を望むお客さんは、この店を何で選んでいるだろうか？

小阪裕司　オラクルひと・しくみ研究所代表　博士（情報学）

山口大学（美学専攻）を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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