【小阪裕司コラム第155話】これが頭に入っていれば1
【小阪裕司コラム第155話】これが頭に入っていれば1
今回は、販売現場で直面した課題を、見事に、そしてお客さんにとってもハッピーに解決した話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、小顔矯正サロン店主からのご報告だ。
この店で普段から売っている商品に、「ローズの香りのボディクリーム」がある。よく見る、ヘッドを手で押すと中身が出てくるポンプ式のボトルに入ったもの。それが、店のスタッフが商品整理をしていた際、1つ床に落ちてしまった。ポンプの頭部分は真っ二つ。店主が、これはさすがに直せないんじゃないかと思案していると、「それ、何とかして売れませんかね?中身は大丈夫だし、ポンプの部分だけの問題ですから」とスタッフ。「でも上手にくっつかないよ、たぶん」と店主が言うと、スタッフは言った。「これと似たようなお話をワクワク系の情報誌か何かで読んだことあります。ネコの貯金箱の話、ありましたよね」。
「ネコの貯金箱の話」とは、当会でつとに有名な実践事例だ。私の講演でもしばしば例に出すので、今お読みの方の中にも聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれない。
改めて概要を伝えると、あるとき、ある店で、陶器製の猫の貯金箱を品出ししていたところ、1つ床に落として耳などあちこち欠けてしまった。そこでスタッフが処分しようとしたところ、「ワクワク系的に、耳が欠けた猫の貯金箱だからこそ『買いたくなる』ことはできないか」と、居合わせた社長。そこで、社長自らPOP(店頭販促物)にこう書いた。「私はネコです。3月3日のひな祭りの日に交通事故に遭いました。イタい~。右の耳を少し、ケガをしましたが、お陰さまで源気になりました。こんな私ですが可愛がってくれる飼い主さんを探しています」。そうしたところ、このPOPを貼って間もなく飼い主(買ってくれる方)が現れ、この貯金箱を定価で買っていったというものだ。買われる際、スタッフは念のためこれは落として傷物になった商品だと確認したが、その方はこう言ったという。「交通事故に遭ったのはこの子ですよね?この子が欲しいんです」。
そこで話をボディクリームに戻そう。先ほどの会話から、よし、猫の貯金箱方式で売ってみようとなった同店。POPはこういう見出しから始めることにした。「誰か一緒に暮らしてくれませんか? 2/14(げつ)てんき くもり」。そこからこのPOPはどう続いただろうか?それにお客さんはどう反応しただろうか?続きは次回に。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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