【小阪裕司コラム第207話】こんなときも、お客さんを笑顔にする

【小阪裕司コラム第207話】こんなときも、お客さんを笑顔にする

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第207話】こんなときも、お客さんを笑顔にする

前回、「ついでにお客さんを笑顔にする」というテーマで、美容院での、冬の時期に椅子を温めておいた事例をお話しした。同様のご報告を、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、別の美容院からいただいたこともある。ご紹介しよう。

同店の常連のあるお客さんが、カットのために子供を店に連れて来たいと相談があった。聞くと、「4歳の長男がとにかく髪を切るのをいやがって、仕方なく寝ている時にカットしている」とのこと。ご主人いわく、「あいつ、1日で3軒の美容室で暴れて断られたことがあるんですよ。でも今回は本人もやる気になっているから大丈夫だと思います」。

この話を聞いて店主らには一抹の不安がよぎったが、昨年末行ったクリスマスイベントにも参加してくれた子だ。不安より、彼にどう自店を楽しんでもらい、美容室を好きになってもらえるかを考えた。そこで、3歳の子供を持つスタッフに、「100均で何か喜んでもらえそうなものを買って来て」と頼むと、裏に日付と名前が書き込める金メダルを買って来てくれた。当日はこれを表彰式的に渡そうと考えたのだった。 当日、幸いなことにその子はおとなしくカットさせてくれた。

そこで終了後、「よく頑張ってくれたので、表彰します!」と言って、金メダルを首にかけてあげ、スタッフと共に拍手した。お母さんも一緒に拍手しとても喜んでくれたのだが、驚いたのは、この子が暴れたときのことを考え、あらかじめ「大騒ぎになるかもしれませんが…」と伝えておいた店にいる他のお客さんだ。シャンプー中にもかかわらず、彼女たちも一緒に拍手してくれたのだった。

店主らは言う。この子がおとなしくカットさせてくれたのは、昨年末のイベントに来てくれたからだろう。そこで少し自店を好きになってくれていたのではないかと。そして今回、他のお客さんが拍手してくれたのは、彼女らにとってもこれが心温まる体験だったからだろうと。彼女らに店主らがお礼を言うと、こう返って来たそうだ。「あの子にとって、この店は温かくて居心地のいい場所なんでしょうね」。

前回の店も今回の店も、「顧客」という「人」に寄り添い、自分たちも「人」だからこその対応をしている。大層なことをしているわけではないが、今後こういう店はどんどん減っていくだろう。しかし人は、大人子供に関わらず、こういう店を好きになるのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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