【小阪裕司コラム第206話】ついでにお客さんを笑顔にする

【小阪裕司コラム第206話】ついでにお客さんを笑顔にする

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第206話】ついでにお客さんを笑顔にする

今回は、「ついでにお客さんを笑顔にする」実践。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の美容院からのご報告だ。

少し季節はさかのぼるが、ある冬の日、予約していたお客さんが同店を訪れると、用意された自分の席に1匹の可愛い犬のぬいぐるみが置いてある。「なにコレ?」と思うと店主が「この子が温めてくれてるんですよ」。そのぬいぐるみは湯たんぽになっており、すでに椅子は温かい。「え〜そうなんだ〜カワイイ」と手に取ると、「温かいんで抱っこしといてあげてください」と店主。そのままお互い笑顔で施術に入っていった――というようなシーンがこの冬、同店には連日のようにあった。

同店がこの実践を始めた経緯は、冬に椅子が冷たくなるのをどうにかしたいという思いからだった。同店の施術用の椅子は合皮で、冬は最初に座った瞬間が冷たい。クレームがあったわけではないが、改善をしたかった。

そこで初めは、椅子の座面と背面を温める電気毛布のようなものを設置してみたが、温かくはなるものの、自店に雰囲が合わない。そこでこれは早々に撤去し、あれこれ考えているうちに、「ただ温めるのも面白くないな」となり、「椅子を温めつつお客さんが笑顔になるやり方はないか」と考えるようになった。そうして思いついたのが、「湯たんぽのぬいぐるみ」だった。このぬいぐるみはおなかのところにカイロが入るようになっており、それをレンジで温め、予約のお客さんが来店する5分ほど前から椅子の上に置いておく。そしてお客さんが来るといつも通り席に案内し、冒頭のようなシーンとなるのである。

その後は、このぬいぐるみを膝に乗せてカイロ代わりにしてもらうのだが、施術に入ればすぐにクロスをかけてしまうので、ぬいぐるみは見えなくなる。しかし店主は言う。「見えるのは最初の瞬間だけなのですが、この笑顔になる瞬間をどれだけ増やせるかが大事なのかなと思います」

この報告書には、「椅子を温めるついでにお客さんを笑顔に出来ることはないかと考えてやってみた実践」というタイトルがついていた。もちろん、美容院としてきちんと施術をすれば、お客さんは満足する。しかし冷えている椅子を温めようと考え、さらに「ついでに笑顔にできるには」と考える。こういうお店が、満足を超えた評価を得て、ファンが増えていく店となるのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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