【小阪裕司コラム第229話】その価値は伝わっているか
【小阪裕司コラム第229話】その価値は伝わっているか
前回、売れない商品を「売れる」に変えるお話をした。あの実践事例は、言い換えれば、一見価値の無さそうな商品(それゆえ、一般的には「はじき」と呼ばれる自家消費になる)の持つ価値を見つけ出し的確に伝えた話だが、実は巷には、そもそも価値ある商品であったり、価値あることを行っていても、それを伝えていないがゆえに、気づかれていなかったり、当たり前とされていることも多い。そこで今回はこういう話をしよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある食品スーパーからのご報告だ。
同店では、近年来店客が増え続けているため、駐車場が足りなくなり、この度増設を行った。工事完了後、新駐車場が利用可能になったことをSNSを通じて告知したが、そこで店主が力を入れたのは、「とめやすい、乗り降りしやすい、荷物を積み下ろしやすい」点に配慮した駐車場であることの訴求だった。
言葉だけでは伝わりにくいとも考え、今回は写真も使った。例えば駐車スペースの隣との間隔は1.2メートル取ってあり、ドアを少々大きく開けても隣の車との間に余裕がある。そこで大きくドアを開けた写真と共にそのことをアピール。また車両後部のスペースについても、後ろの壁まで2メートル取ってあり、荷物の積み下ろしがしやすい。それも、実際にメジャーを置いて撮った写真などと共に伝えた。
すると、利用したお客さんから、「駐車場とめやすくていいね!」「ドアを開けるとき、隣の車にぶつからないか心配しなくていいから嬉しい!」と続々声を掛けられるようになり、こだわりが伝わったことが分かり、まずは嬉しかった。
そこで店主の気づきなのだが、実は同店の駐車場、隣の車との間隔は15年前から同じ。今まであった駐車場も、今回新設の駐車場同様、お客さんがとめやすい、乗り降りしやすいように配慮はされていた。しかしこれまで一度も、今回のように声を掛けられたことはなかったのである。
「お客さんは何となく〝とめやすい〟と感じていたのかもしれないですが、何でとめやすいか?を伝えていなかったので」お客さんが言葉にするほどその価値を意識できなかったのではないか、と店主は言うが、それは正解だ。
価値あるもの・ことは、こちらが意識を持って、言葉にして(ときには写真なども使って)伝えよう。それは伝わっていないかもしれないからである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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