【小阪裕司コラム第226話】お客さんを巻き込んで遊ぶ2
【小阪裕司コラム第226話】お客さんを巻き込んで遊ぶ2
前回、機器のメンテナンスや小型車両の講習会などのイベントをスタンプラリー形式にして、お客さんと共に遊ぶ試みをご紹介した。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、土工農具などの販売、建設機器リースなどの事業を営んでいる会社での取り組みだ。その講習会に来る方々はほとんどいわゆる〝おじさん〟だが、はたしてこの企画はうけるのだろうか?
具体的なスタンプラリーのしつらえは、約30のイベントや講習会を対象とし、会場へ来て受付でスタンプをもらうという分かりやすいもの。5会場以上参加した方には同社特製オリジナルキャップを、8会場達成でさらに特別な〝何か〟をプレゼントすると告知した。とはいえ、これを達成するには最寄りの会場だけではできず、必然的に遠くの会場にも足を運ぶこととなる。
では結果はどうだったのか。意外にも初年度から5会場達成者が3名。難しいと思っていた8会場達成者も3名出た。そこで彼らには、各営業所で感謝状とプレゼントの授与式を行い記念撮影の上フェイスブックに掲載、会員全員にはさらなる告知を行うと、次の年、また次の年と、挑戦者も達成者も増え、今では、今年こそは!と意気込んでいるお客さんが多数とのこと。
ちなみに、8会場を達成するともらえる〝何か〟のなかで大人気なのは、達成者の似顔絵入りの専用名札。この先ずっと同社イベントに入場できる顔パスチケットだ。ある意味これはスタンプラリーのゴールだが、達成者はその後もさらに足しげく各会場のイベントに通う。
また、5会場達成者のオリジナルキャップは、入手後それをかぶって来場するようになる方が多数出現。一昨年からイベント来場記念品にピンバッヂを始めると、皆このキャップにこのバッヂを付けるようにもなった。 かくして同社の企画はヒットしたのだが、実はこれは不思議なことではない。
お客さんを巻き込んで共に遊ぶ――これが今日商売において大切な取り組みなのは、この例のように、誰よりもお客さんが、ひそかにそれを望んでいるからなのだ。「人間とはホモ・ルーデンス=遊ぶ人のことである」という世界的に著名な研究知見もある。
では、こういった取り組みが商売、とりわけ売上や利益、顧客増など本来商売が成果とするところに何をもたらすのだろうか? この続きは次回に。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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