【小阪裕司コラム第248話】なぜ席数が減って売上も利益も上がるのか2
【小阪裕司コラム第248話】なぜ席数が減って売上も利益も上がるのか2
前回、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある飲食店の女将さんからいただいたご報告をお伝えした。席数を減らしたにも関わらず売上も利益も上がったというものだが、そのカギは、同店でのお客さんの体験価値を上げる様々な取り組み。そのひとつは「お客さんの目の前で、お茶を炒って出す」というものだが、どういうものだろうか?
それは、お食事の最後に供される。お客さんの前に出されたカセットコンロの上で緑茶を焙っていくのだが、その道具は、茶葉を煎る「焙烙(ホウロク)」という素焼の平たく浅い土なべで、信楽焼の工房で作ってもらっているもの。茶葉が茶色く変色して来ると、芳香が漂う。それを、茶葉が躍るのがよく見えるガラスの急須に熱湯を注ぎ、入れていく。これら、時間にして7,8分とのことだが、お客さんには特別な時間となる。
お客さんの反応はと言えば、歓声と共に次のような言葉が多く聞かれる。「わー、癒されるー。しかも美味しい」「すごく贅沢した気分!」「お料理屋さんでこんなに手間をかけてくれるの?」「何だかこんなにしてもらって、申し訳ないくらい」。女将さんも、「これを始めてから、満足度がめちゃくちゃ上がっているのがわかります」と言うが、事実、この取り組みを始めてから同店の評判は一層高まった。ではこれが、「席数を減らしたにも関わらず売上も利益も上がる」こととどう関係してくるのだろうか?
ここで、「生産性の向上」について考えてもらいたい。「お客さんの目の前で、お茶を炒って出す」というサービス、時間にして7、8分のことだが、以前の同店のように「沢山の方にご来店いただいて、スタッフも沢山いて回転もして賑やか」「流れるような営業スタイル」では難しいことだろう。
また昨今の風潮で「効率を上げることで生産性を高める」なら、こんなことをやってはいられない。しかし「生産性の向上」とは、「生産性の向上=付加価値の向上/効率の向上」の公式で表せられる。付加価値を上げても生産性は向上するのだ。そして同店は、「お茶を炒って出す」ようなお客さんの体験価値を高める取り組み、すなわち付加価値向上の取り組みを重視し、行っている。
たとえ席数を減らしてでも。しかしだからこそ、売上も利益も上がっていく。これこそが同店好業績の秘訣であり、飲食店に限らず、これからの商売のひとつの道なのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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