【小阪裕司コラム第244話】「売上が上がってもしんどいビジネス」
【小阪裕司コラム第244話】「売上が上がってもしんどいビジネス」
今日は「売上が上がってもしんどいビジネス」と、そうでないビジネスの話。
先週、私が長らく主宰しているワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の、1年に1度のお祭りがあった。遠くはカナダから、国内でも北は北海道、南は沖縄・石垣島から会員さんたちが集まり、大いに盛り上がった。
「お祭り」といっても、当会の年間MVP表彰も兼ねていて、毎年そこでの受賞者のコメントが感動的。会場に集まった会員さんたちも思わず涙して、今年も感慨深い授賞式となったが、そこでのスピーチの中に、大変印象深いものがあった。それは、ある卸売業の経営者の次の言葉だった。
「(実践会への)入会前、売上が下がると当然しんどいのですが、売上が上がってもしんどかった。刹那的な売り上げのように感じ、どうもしっくりこないんです。親の後継者として入社したものの、これがあと30年続くのか、経営って大変だなと思いました」。
売上が上がってもしんどい――この言葉に私ははっとした。これはとりわけ今日の、多くの経営者の心情であり、深い悩みではないか、と。彼の会社の詳細はここでは記さないが、大手メーカー品を主に扱う卸売業。いわく、商品での差別化は大変難しく、いきおい価格や納期の競争となる。新規客の獲得ルートも近年多くがネット。お決まりの検索対策などはそれなりに施し、新規客は獲得できていたものの、顔を合わせることもなく価格や納期だけで取引が決まり、ほとんどが1回限りのお付き合いとなっていたという。
それがワクワク系に出合い、状況は180度変わった。今や多くの取引先と価格や納期に関係なく取引があり、しかもそれが継続的に続く。中には先々の取引に対し、先に入金してくれる顧客もある。最近ではある新規の取引先から「取引先が御社に変わってから、(わが社で)働く従業員の評判が非常に良い。ありがとう」と、わざわざお礼の電話があったとのことだが、そんなこんなで現在の彼は言う。「今は本当に愉しく、幸せ」だと。そして、あいかわらず商品で差別化は難しいが、今は自社の「人」を軸にした総合的な対応で“差異化”でき、選ばれている、と。
売上が悪いのならもちろん、良くても、「しんどいビジネス」からは、もう抜け出そう。商売の道は、そのひとつだけではないのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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