【小阪裕司コラム第269話】「牡蠣オーナー制度」の視点を変えると

【小阪裕司コラム第269話】「牡蠣オーナー制度」の視点を変えると

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第269話】「牡蠣オーナー制度」の視点を変えると

 今日は「牡蠣オーナー制度」のお話。この制度そのものが珍しいが、さらに「視点を変える」ことで、大きなビジネスの広がりが見えて来たというお話だ。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の水産会社からのご報告。

 同社では今年、初めての試みとして「牡蠣オーナー制度」をスタートした。リンゴの木やワインを作るブドウの木のオーナー制度はよく聞くが、牡蠣のオーナー制度は珍しい。それはどんなものかというと、リンゴの木やブドウの木同様に、カルチ1口10枚のオーナーになってもらうもの。ちなみにカルチとは、牡蠣の稚貝が付着しているホタテの貝殻のこと。1枚のカルチに稚貝が20個~50個くらい付いており、成長過程で脱落するなどして、最終的には1枚のカルチから5~10個が収穫できる。つまり、1口10枚のカルチのオーナーゆえ、およそ50個~100個が自分のものになる、ということだ。

 今年はあくまでもモニターということで、価格は22000円に抑え、募集を始めてみると早々に定員に。6月には早速、オーナーの特典である作業体験として、稚貝が付着したホタテをくくり付けたロープを牡蠣いかだにつるす作業も、オーナー参加のもと行った。

 オーナーの方々には、この作業体験も含め、大変な好評ぶり。「価格設定間違ってませんか?」との声もあり、早々に大満足のよう。立案者である3代目は、来年以降の事業展開を考えているのだが、そこで彼は気がついた。この企画で集まってくれたお客さんを単に「牡蠣オーナー制度のお客様」と見るのではなく、「牡蠣オーナー制度的なことに関心があり、それ的な案内に反応してくれる人」と捉えたらどうだろうか、と。

 この視点はとても重要だ。そして今日、多くの業界で起こっている「ビジネスモデルの賞味期限切れ」(と私が呼ぶ現象)の解決につながるものだ。この事業の次の展開には、モニター価格を値上げしてより収益の出る商品化を図ることもあるが、このオーナー制度を「的なことに関心がある人たち」が集まってくる入り口と考えれば、別の展開もある。

 それは、その人たちが同じく関心のあるであろう商品やサービスを提案し、購入してもらうことだ。もちろんそれは牡蠣や水産物以外でもいい。視点を変えれば、ビジネスには様々な可能性が広がっていることが見えてくるものなのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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