【小阪裕司コラム第268話】お客さんに声をかけるだけでも
【小阪裕司コラム第268話】お客さんに声をかけるだけでも
今日は「声かけ」というささやかなことが、リピーターを着実に増やすというお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、キャンプ場経営者からのご報告だ。
彼はあるときこう考えた。「キャンプ場だって宿泊施設なのだから、旅館みたいにお客様全員に挨拶して回ってもいいんじゃないだろうか」。そのとき彼がイメージしていたのは、旅館で女将が各部屋を回って挨拶する、あの感じだった。
そこで、ミーティング時にスタッフに話してみると、「は?キャンプ場で声かけするんですか?」「何かきっかけがないとそれはちょっと・・」「静かに過ごしたい人にとっては不愉快だと思います」などの反対意見が。
そこでまずは一人でやり始めることに。とはいえ彼自身、それまで一切やったことがないこと。試しに何度も利用している方から始めたそうだが、それでもガチガチに緊張し、お客さんの中には「何か注意されるのか?」と怪訝な顔をされる方もおられたとのこと。 しかしそれも続けていくと慣れてくるもの。お客さんからも、「声をかけてくれて嬉しかった」「他のキャンプ場ではあり得ない」など喜びの声が増え、対象者を徐々に増やし、ついに昨年から、当初の目標だった、来場したお客さんすべてに声をかけるようになった。
それはどんな結果をもたらしただろうか?
2020年、こういったことをまったく行っていなかった頃の同キャンプ場の、1年間の利用者の中でリピーターが占める割合は19%。しかし、声かけを行っている現在は38%。着実にリピーターは増え、効果は上がっている。彼は言う。「正直言って以前は『そんなやぶへびなことをして苦言を呈されても困るしな』という懸念から、むしろ会話を避けていたフシもありました。しかし次第に声かけの重要さが身に染みて分かるようになり、結局今ではご来場いただいた全員に声かけするようになりました」。
出会ったお客さんに声をかけない。その後も何もコンタクトしない。そういう会社やお店も増えているように思う。もしかするとそれは、「そんなやぶへびなことをして」と、かつての彼のような考えが背景にあるのかもしれない。しかし逆に、「声をかける」だけのささやかなことでも、リピーターを増やす妙策になり得るのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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