【小阪裕司コラム第314話】広告か遊具か

【小阪裕司コラム第314話】広告か遊具か

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第314話】広告か遊具か

 今回は、「広告か遊具か」というお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある農家からのご報告だ。

 この農家では、自社で育てた作物を加工し、直売所で販売している。当初、直売所の集客は広告に頼っており、毎年旬の時期になると地元新聞に広告を掲載していたため、広告費もかさんでいた。しかし、ワクワク系を知ってから、大きく行動を変えた。その最たるものは名簿作りと、既存客とのコミュニケーションだ。購入客の個人情報をしっかりいただくようにし、ニューズレターを送るようにした。もちろんその費用はかかるが、それには広告掲載の予算をあてることにした。

 店主は言う。「ニューズレターは自己開示の場であり、お客さまとの接点や交流の場としても役立ちました。美味しい作物ができた時期や、各種イベントのお知らせをお届けすることで、より身近な関係づくりが進みました」。並行して同社は、イベントに力を入れた。バーベキュー会やお食事会、月に1度の「歌う会」(顧客が集い、みんなで歌を歌う会)「書道教室」、3か月に1回のバス旅行などだ。

 さらに直売所の施設も充実させた。その一つがお子様向けの遊具だ。今では子どもたちが乗れる汽車やメリーゴーランドもある。農産物の直売所になぜ遊具なのかといえば、同店ではお孫さんを連れて来る方や、家族連れも多く、「子供たちが喜ぶために必要なもの」。

 店主は語る。「お客さまの顔や名前を覚え、互いに名前で呼べるようになりました。 会話の中でお客さまの趣味、年齢、家族構成などの情報も把握できるようになり、より深い交流が生まれました」。それらの結果として既存顧客は増え、同社の売上も増えていったのである。そこで冒頭の「広告か遊具か」だが、広告はダメで遊具が良いと言いたいのではない。既存顧客とつながり、顧客が増えていくことを重視し、そのために必要なことを実行すること。それと並行して行う広告(新規客獲得)であれば、意義も効果も生まれる。大切なのは、そこだ。

 また、次の店主の言葉は示唆に富むものだ。「何かを実践する際には常に『お客さまのためになるか』『お客さまが喜んでくださるか』を基準に行動するようになり、その結果、何をすべきか迷うことがなくなりました」。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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