【小阪裕司コラム第312話】「価値」が伝わったとき、お客さんに起こること1

【小阪裕司コラム第312話】「価値」が伝わったとき、お客さんに起こること1

今回は、「価値あるもの」の価値をいかに伝えるか、それが伝わったときお客さんにどんなことが起こるのかの深いお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある呉服店からのご報告だ。
ご存じの方も多いだろうが、呉服市場は1980年前後をピークに右肩下がりの傾向が続いている。当時およそ1.8兆円あった市場規模は、約2200億円にまで縮小しているのが現状だ。そんな中、今回同店は「結城紬」の展示会を行った。結城紬とは、「国の重要無形文化財」、「ユネスコ無形文化遺産」にも登録されている大変価値の高いものだ。それだけに価格も高く、近年はさらに高騰している。問題はその「高い価値」の伝え方だ。結城紬を良く知るお客さんならそれは分かっている。しかし今回、よく知らない方にも伝えたい、知ってもらいたいとも考えていた。
では、どうするか。まず考えたことは、結城紬が作られている背景を知ってもらうことだ。そこで現地に赴き、工房で職人さんの話を聞き、制作現場を写真に撮らせていただいた。展示会では、その写真を工程順に壁に貼り、お客さんに見てもらいながら、出来上がるまでの大変さや、どんなところで着物が作られているかを説明した。さらに、結城市名物の「ゆで饅頭」をお茶菓子として用意し、産地に行った気分を味わってから展示会場へ案内する流れとした。

そして展示会場でも、いきなり販売に入らず、結城紬の特徴である軽くて暖かい着心地の良さや、最高の肌触りを体験してもらうため、着物の形になったものを羽織ってもらうステップを入れた。そうしてからようやく各々の作品と販売の話に入って行ったのである。
そうしたところ、意外な成果が生まれた。結城紬は派手な色柄もなく、落ち着いたものが多い。さらに高価でもあり、初めての方には難しく、すでに結城紬の購入経験のある方が買い上げの中心になると思われていた。しかし、結果として半数以上が初めての方。中には、数年ぶりに着物を購入した方や、長年来店のなかった方も購入され、全体として大きな売上となったのである。そしてさらに意外な反応もあった。この続きは次回に。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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