【小阪裕司コラム第308話】「忘れられる」ことがもたらす損失とは

【小阪裕司コラム第308話】「忘れられる」ことがもたらす損失とは

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第308話】「忘れられる」ことがもたらす損失とは

 前回、補聴器専門店の事例で「忘れられない」ことの大切さをお伝えした。この事例では、店主自身が「忘れられないことを常に意識する必要性あり」と反省していたが、読者諸氏の中には、ビジネスにおいて「忘れられる」とはどういうことか、そこに疑問を持たれた方がいらっしゃるかもしれない。そこで今回は、この点を深掘りしたい。

 ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるリフォーム会社の社長から、次のようなご報告をいただいた。同社は、実践会に入会してまだ2か月足らず。しかし果敢に学び、できそうなところから実践していく中で、既存客へのアプローチを行った。10年~15年前に塗装工事した、社長いわく「全く放置してあったお客様」へ向けてレターを作成し、送ったのだ。

 そのレターはA4一枚の簡素なもの。内容は、「以前、外壁塗装工事をやらせていただきました、○○(社名)と申します」で始まり、塗装の施工間隔の目安が15年くらいであること、まずは外壁塗装診断がおすすめであることなどで、売り込み度合いは弱めのものだ。その数およそ100軒。すると早速2軒の顧客が反応し、成約に至った。その額約250万円である。

 このレターを送らなければ、おそらくこの売上はなかっただろう。というのは、お客さんは「忘れていた」であろうからだ。あなたは、10年以上前の工事のことを頻繁に思い出すだろうか?よほどの不具合が起こらない限り思い出さないのではないだろうか。しかも、「塗装の施工間隔の目安」も知らず、意識にもない中で。

 また今回、すぐに2軒のお客さんが反応したことから、同社の仕事への満足度は高いことが伺える。良い仕事をしているのだ。しかしこうした同社からの働きかけがなければ、新たに営業に来た別の業者に依頼したかもしれない。

 あなたは、数か月前に夕食を取った店を最近思い出しただろうか?そこがとても美味しかったとしても、まだ一度だけの利用だとしたら?「人は満足していても忘れる」―このことをよく覚えていてほしい。そうしてお互いにとっての「次回」が無くなることは、良い仕事をしている人、それに満足した人双方にとって、とてももったいないことなのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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