【小阪裕司コラム第307話】「忘れられない」ことの大切さ

【小阪裕司コラム第307話】「忘れられない」ことの大切さ

今回は、「忘れられない」ことの大切さ、ひいては商売におけるコミュニケーションの大切さのお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある補聴器専門店からのご報告だ。
店主いわく、お客さんが自店を知るきっかけの大半はホームページとネット広告。その後顧客とのコミュニケーションはLINEと店頭での会話のみ。同店は、一人ひとりのお客さんに専用時間を設け長く時間をかけるスタイルゆえ、補聴器購入時のコミュニケーションはしっかり取れているが、ワクワク系を知った後、その他のコミュニケーションがお粗末だと感じていた。
そこでまずはワクワク系の多くの会社・お店が行っているニューズレター(以下NL)の作成と店頭での配布を始めた。ただ本来、自店の顧客として維持したい相手すべてに届く必要があるのがNL。手渡しでなく郵送することが望ましいが、諸々の理由から躊躇していたあるとき、顧客に補聴器の補助商品のセールスレターを送る機会があった。店主は、今こそNLを送付し始める機会と思い、セールスレターとセットにして送付した。すると思わぬ反響があった。今回セールスレターに掲載した商品はもちろん売れたのだが、それ以外の様々な反応があったのだ。

今回のレターをきっかけに来店予約され、補聴器の買い替えにつながった方が2名。既存顧客からの紹介があり、高価な最上位機種の購入につながった方が1名。「極めつけ」と店主が言うのは、電話によるやり取りだけで買い替えとなった顧客もいたことだ。「試聴、貸し出しを常とする補聴器業界ですので、電話買い替え注文は私にとって大事件でした」と店主は言う。
今回の実践を通じての彼の気づきは、「忘れられないことを常に意識する必要性あり」。買い替えの提案などもこれまで自主的に行ってこなかったため、顧客にはかえって不親切だったのではないか、買い替え周期が長い商品であるため、新規客にばかり着目し過ぎていたと反省する。実際、カフェや美容院などと違い、お客さんにとっても頻繁に通う店ではないが、いわゆるQOL(生活の質)にとって大切な相談先でもある。
今後は、NLを毎月発行にし、ハガキやLINEによる情報提供も行い、個別には補聴器の点検を促すなど、常に忘れられないようにすべきと店主は言うが、それがお互いにとって大事なことなのである。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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