【小阪裕司コラム第306話】続「思い込み」は恐い

【小阪裕司コラム第306話】続「思い込み」は恐い

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第306話】続「思い込み」は恐い

 今回は、前回お話しした「思い込みは恐い」という話の続き。今回は別業種、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある美容院でのものだ。

 店主は実践会に入会して、およそ10年。今では遠方から車で30分以上かけて来る顧客も少なくなく、完全予約制ながら予約も順調。業績的にも精神的にも余裕のある商売を行っている。さらに、各種イベントや物販も大好評。顧客に愛され、実にワクワク系らしい商売を営んでいる。

 そんな店主に先日ひょんなことを聞いた。自店がワクワク系になる前のこと。お店は予約制ではなかったとのことだった。では、どうしていたのかと聞くと、開店時間になったら店を開け、さあ今日はどんなお客さんが来るだろう、そもそも今日はお客さんが来るだろうかと、そんなことを考えながら毎日営業していたのだという。もちろんお客さんが少ない日もある。そんな日は「今日はヒマだったね」とスタッフたちと言い合っていたそうだ。現在は完全予約制である同店。店主に「そのころ、予約制にしようとは考えなかったのですか?」と訊くと、意外な答えが返って来た。「うちの町は田舎だし、この町のお客さんは予約は好まず、『髪を切りたい』と思った日に切りたい人たちなのだと思い込んでいたんです」。

 私としては実に意外で驚く答えだったが、ここにも「思い込み」がある。しかしこの手の思い込みも、多くの業界にあるのではないかと思う。

 思い出したのは、あるトリミングサロンのことだ。この店の場合は、予約制は取っていたものの、利用する人はほとんどおらず、自店の顧客は予約を好まないと思い込んでいた。あるとき私が「それは、『予約してくれ』と言ってないからかもしれませんよ」と言うと、店主はすぐに、トリミングが終わったお客さんに「次回の予約をしていって」と告げるようにした。すると、たったそれだけで、多くのお客さんが予約していくようになったのである。

 「思い込み」は恐い。たとえば今回の美容院の場合、今は予約制で経営が安定しているだけでなく、今日誰が来るかが分かっていることにより、来る方に合わせたきめ細かなもてなしを準備できると店主は言う。それがまた好評につながって次の予約を生み、より経営は安定していく。そういう未来を阻んでいるのは、往々にして単なる「思い込み」なのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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