【小阪裕司コラム第302話】これからの時代に、安定や成長を望むなら

【小阪裕司コラム第302話】これからの時代に、安定や成長を望むなら

前回お伝えした「価値創造活動」と並んで、当コラムでずっとお伝えしてきたテーマに「顧客創造活動」、顧客との絆作り・つながり作りがある。たとえば最近の当コラムでも、町のうどん店によるつながり作りの具体例があったが、この活動は、当会では、業種を問わず、商売がいわゆるBtoB(法人対象のもの)かBtoC(個人対象のもの)かを問わず、最重要視してきた。
町のうどん店などは「席の回転の早さが勝負」とされる業種だけに、絆作りなど、ましてそのために店頭で会話を増やしたり、イベントで盛り上がるなどもってのほかと言われそうだが、そんな業種においても絆作りが最重要なのは、自社・自店を支持する顧客を必要十分に保持するためだ。
ワクワク系の経営論には「フロー型・ストック型」という概念がある。フロー型とは文字通り「日々お客さんが流れていく状態」の商売で、ストック型とは「日々お客さんを溜めていく状態」の商売だ。両者に優劣があるわけではないが、私が後者を強く推奨する理由は、日本が人口減少社会だから。フローは自然減していくからだ。
そんな社会趨勢の中でもストックは経営の安定をもたらすし、急激にフローが細ったときにも有効であることは、コロナ禍の中、当コラムでお伝えした多くの事例でも明らかだ。

また、ワクワク系では「顧客」とは自社・自店に「愛着・信頼・共感」を持った顧客のことであり、絆作り活動をしていくと自ずとそういう顧客が増えていくので、そんな顧客に囲まれて経営が安定していくことは、仕事が“気持ちのいい”ものになる。
さらには、個々の顧客との絆作りが進むことで、自ずとそこにわれわれが「顧客コミュニティ」と呼ぶ、安定的な顧客群ができる。それを土台に新しいビジネスモデルを生み出せることも、これまで幾つかの具体例で示してきた。改めて読者諸氏にも考えていただきたい。これからの日本で、フロー型の商売がどれだけ有望か。フロー型の商売で生き残るとしたら、どういう競争に身を投じなければならないか。
もちろんストック型の商売は、日本のみならず、世界を相手にしたときにも有効だ。「守り」と同時に「攻め」、つまり成長を目指すときにもストックだ。それは、顧客と共に成長するという、商売本来の姿なのである。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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