【小阪裕司コラム第309話】「知られている」という商売の盲点とは

【小阪裕司コラム第309話】「知られている」という商売の盲点とは

前回、前々回と、お客さんに「忘れられる」という商売の盲点、「忘れられない」ことの大切さをお伝えしたが、そこで思い出した事例がある。今回は同様の、お客さんに「知られている」という商売の盲点について話そう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある食品スーパーからのご報告だ。
同店は、今や他県からも来店がある繁盛店だが、ご当地ではもう50年以上スーパーを営んでおり、近隣約1000世帯には、週に2回チラシを入れ続けている。そのチラシに最近、初めて載せた商品があった。それは、この店の名物のひとつで、もう40年間売り続けている、自家製のサバ味噌である。
店主親子は近年、ワクワク系で業績をV字回復させ、それゆえ商品の価値を教え、伝えることに注力しているが、さすがに40年間売っている名物を改めて語ろうとはしていなかった。しかし最近彼らが気づいたことには、「最近、商品はもちろん、店そのものもまだまだお客さんに知られていないという実感がある」と。そこで知られる工夫をしてみると、たちまち売り上げや客数が上がるのだそうだ。試しに都市部に自店の存在を知らせる意図でチラシを入れてみたところ、来店客が殺到して大変な事態となり、それ以来改めてチラシは近隣地域に限定しているという、人によっては思わずうらやましくなるような話もあった。

そこで今回のチラシだが、40年来の名物商品を初めて載せてみたところ、どうなったか。近所の顔なじみのお客さんにも「あのチラシに載っているのはどれ?」と大反響。なんとその売り上げは、いきなり3倍になったのである。
繰り返しになるが、チラシを配っているのは近隣の約1000世帯のみ。店は50年以上にわたって営業を続け、サバ味噌は40年来の看板商品だ。しかし結果はこうなった。これほど長く売り続けており、店主らが「名物」と自負するほどの商品でも、実際には、意外なほど知られていなかったということだ。
ここでの学びは、「売れない」「客が来ない」といったとき、その原因はただ単に知られていないだけという可能性もあるということだ。そして、このサバ味噌のように、長年売っており、それなりに売れてきたものでも、そうである可能性がある。これは案外見落とされていることなのである。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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