【小阪裕司コラム第335話】声のかけ方を変えただけでも
【小阪裕司コラム第335話】声のかけ方を変えただけでも

前回名簿作りのための日本料理店の工夫をお伝えしたが、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるサービス業の方から、名簿作りの別の工夫をご報告いただいた。続いてご紹介しよう。
この店でも既存客とのコミュニケーションを重視しており、名簿作りには一年前から取り組んでいた。そうしてすでに四〇〇名以上の名簿が出来上がりニューズレター(以下、NL)を送っていたのだが、ここ数ヶ月はペースダウンしていた。というのも、これまでは「名簿にご記入いただけましたか?」と訊ねて記入をお願いしていたのだが、名簿作りが進んできた現在では、来店客のなかに記入済みの方とそうでない方がいて、判別がつかなくなってきたからだ。今までのやり方では記入済みのお客さんに再度訊いてしまう恐れもあり、店頭のスタッフにとっては、それがペースダウンの一因にもなっていた。
そこで店主は考えた。名簿に記入済みで既にNLを送っている方とそうでない方がいるのであれば、「名簿にご記入頂けましたか?」と訊くのではなく、「お手紙(NL)は届いていますか?」と訊いてみたらどうだろう。そうすれば返答で記入済みかどうかが分かるのではないかと。

そこで実際にお客さんとの会話の中でさりげなく「手紙届いてます?」「読んでいただいてますか?」と訊ねてみると、思った通り「いつも楽しく読ませていただいてますよ」か「えっ?何ですかそれ?」の二種類の返事しか返ってこない。そこで、未記入の方にはこれまで通り記入をお願いすることにした。こうした結果、再びペース良く名簿作りが進んだのである。 店頭での声かけを少し変えるだけで、お客さんにもスタッフにも無理のない状況が作れる。
また店主はスタッフが訊ねることを忘れないようにこのセリフを紙に書いてレジ横に貼っておいたのだが、こうしたことも効を奏している。前回、前々回の事例もそうだが、こうしたちょっとした気づきと工夫が、大きな商売の資産を生むのである。
ところで、今回ご紹介した事例は20年ほど前にいただいたものだ。「ああ、それでNLね。今なら、SNSかLINEでいいよね」という意見もあると思うが、実際には逆で、近年寄せられる会員の現場報告を見ると、手紙やハガキには、20年前よりずっと熱い喜びの反応が寄せられるようだ。もちろん、どんな手紙・ハガキを送るかによるが、今この時代に改めて捉え直したい点である。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
おすすめの関連記事
-
-
【小阪裕司コラム第334話】顧客リストが20倍になったささやかな改善とは
カテゴリ : 小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ前回、人を惹きつけるA型看板の「一言」についてお話しした。ちょっとしたはたらきかけで、お客さんの行動が変わる実例だ。今回ももう一つ、ほんのちょっとした改善で、お客さんの行動が変わる事例をお届けしよう。ワクワク系マーケテ...
-
-
【小阪裕司コラム第333話】人を惹きつける看板の「一言」とは
カテゴリ : 小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ今回は、誰もが簡単にできる店頭の看板活用のお話。そこに書く言葉をあるものに変えただけで、次々とお客さんが来店したというものだ。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業...
-
-
【小阪裕司コラム第332話】お客さんが真に買っているものとは4
カテゴリ : 小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ前回「お客さんが真に買っているものとは」というテーマをお届けしながら、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある洋服と雑貨の店からの...
-
-
【小阪裕司コラム第331話】お客さんが真に買っているものとは3
カテゴリ : 小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ当コラムで少し前に「お客さんが真に買っているものとは」というテーマをお届けした。牡蠣のオーナー制度にまつわるエピソードからの気づきだが、今日の消費行動の読み解きにおいて重要なテーマだ。今回は、そのエピソードから「同じこ...
