【小阪裕司コラム第332話】お客さんが真に買っているものとは4
【小阪裕司コラム第332話】お客さんが真に買っているものとは4

前回「お客さんが真に買っているものとは」というテーマをお届けしながら、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある洋服と雑貨の店からのご報告を思い出した。
その話の主役は、同店で売っている招き猫の形をした貯金箱。スタッフがその品出しをしている際、一つ落として耳が欠けてしまった。本来ならば廃棄処分となるものだが、店主に思うところがあり、欠けた部分を修理して、次のPOP(店頭販促物)を貼り、店頭に出した。「私はネコです。3月3日のひな祭りの日に交通事故に遭いました。右の耳を少しケガしましたが…(中略)こんな私ですが、可愛がってくれる飼い主さんを探しています」。するとあるお客さんが、「耳を破損したこの貯金箱が欲しい」と言って買っていったという話だ。
その後日談もある。耳が欠けた猫の貯金箱が売れた後、この売り場には別のPOPが貼られた。そこには、交通事故でケガをした猫の貯金箱が救出されたことを書いた。そうしたところ、この貯金箱を今度は二つ買うというお客さんが現れた。もちろんそれらの貯金箱は破損していないが、それにしてもなぜ同じ商品を二つ買うのか。

店主が問うと、その方はこう答えた。「実は息子を交通事故で亡くしました。(中略)やっと今日買い物に出かけ、この店におじゃましてPOPを見たら、交通事故でケガをした猫の貯金箱を救出したとあります。ぜひ二つ買わせてください。一つは新しく建てて引っ越した家の玄関に。もう一つは亡くなった息子が住む予定だった部屋に置きたいのです」。
同店では、あるときこんなこともあった。猫の貯金箱同様、スタッフが店の掃除中、今度は陶器の湯呑みを割ってしまった。それを知った店主は再び「どうすればこの湯呑みが生き返るか」と考えた。よく見るとその湯呑みには羊の柄がある。そこで彼はこういうPOPを書いた。「私はひつじです。ひつじ年生まれの人は心優しい人と言われています。私を大事にしてくれるあなたを待っています」。するとある女性客が、「私、ひつじ年なのです。この湯呑みで飲むと幸せになる気がします。売ってください」と言って買っていった。
ワクワク系の商売現場ではしばしばこのような光景が見られるし、同様のことは業種・業態を問わず、あらゆる現場で起こる。ここでお客さんが買っているものは何だろうか?
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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