【小阪裕司コラム第62話】金物屋さんの部活動

【小阪裕司コラム第62話】金物屋さんの部活動

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第62話】金物屋さんの部活動

今日は”部活動”をやっているお店の話。ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の、ある金物屋さんでのお話だ。

今回、この金物屋店主から報告をいただいたのは、部活動の話がメインではなく、コロナ情勢下での成果についてだ。

営業自粛要請が出ていた業種ではなかったものの、この4月、5月は商店街に人も少なく、同店も一部の期間は店を閉めていた。にも関わらず、店頭販売の売上が前年比で二桁伸びたというものだ。

金物屋とは、ご存じとは思うが、一般的に鍋やフライパン、包丁などを売っている店だ。この手の商品が緊急で必要になる方は少なく、そういう意味では不要不急の業種だ。

コロナでなくても、週に何度も訪れる業種ではないだろう。そんななか同店はこの時期売上を伸ばした。

店主はその要因を幾つか自分なりに分析しており、報告書では、地元での買い物客が増えたことや、早い時期から感染対策(カウンターのフィルムなど)を行っていたこともあり、安心してもらえたことなどを挙げていた。

それも要因ではあろうが、それだけでこの情勢下・営業体制で前年二桁伸びることは難しいだろう。

そこで部活だ。同店ではかねてより、顧客との絆作り、顧客コミュニティ育成の一環で、顧客と部活動を行ってきた。

そのひとつは「グルメ部」。調理器具を売っている店だからではなく、元々は、抽選に当たらないと買えない貴重なお取り寄せ品を、抽選に当たったときに顧客と共に賞味することが楽しみの活動だった。

しかしこの時期、この抽選自体が中止に。そこで、別のお取り寄せ品をみんなで楽しむ活動へとシフトし、「グルメ部」となった。今ではオンラインで様々なお取り寄せ品を共に楽しんでいる。

もうひとつは「観劇部」だ。これは文字通りの活動だが、こちらもこの時期観劇を予定していた舞台が軒並み中止。そこでこちらもオンラインでの会合に切り替えたのだが、今では観劇抜きでも集まること自体に一層楽しみができ、和気あいあいと過ごしているとのこと。

これが売上の二桁伸びとどう関わるのか。

この4月、5月、これら部活に参加している大勢のお客さんとは接触が途切れなかった。
彼らはお店にもよく来店し、買い物もしていった。金物屋という不要不急のお店に足しげく通って来るのだ。

現在私のもとには、ワクワク系の多くの店から、業種・業態を問わず、訪ねてくる(「買いに来る」のではない)顧客が増えているという報告が届き続けている。

こういう不安な社会情勢のなか、つい足が向く場所。
それはコロナ後の社会でも、人々にとってずっと大切な場所となるのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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