【小阪裕司コラム第68話】1年半、絆作りをやるとどうなるか
【小阪裕司コラム第68話】1年半、絆作りをやるとどうなるか
先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の
理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員になって丸2年
という美容院店主から、ここまで進めてきた顧客との絆作りの実感について
ご報告をいただいた。
彼が顧客との絆作りに行っていることのひとつは、ニューズレターというコミュニケーションツールを毎月送ることだ。
始めて1年半、まず際立った変化は、お客さんが明らかに優しくなったことだという。
また最近特に感じることとして、仲良くなっただけでなく、自発的に自己開示してくれる方が増えてきた。
10年来のお客さんであっても知らないことばかりだと気づかされた。「そんなことをおやりになっていたのか」と驚くことも珍しくないそうだ。
「自己開示」とは読んで字のごとく、自分のことを開示する――他者に話すことだ。
これをなぜ彼が注目しているかといえば、普通、お店でお客さんは自己開示しないからだ。ところが、ワクワク系のお店では、絆作りが進んでくると、決まって自己開示するお客さんが増えてくる。
端的に言えば、こちらが自己開示するからこそ、あちらも次第にするようになる。
そうしているうちに、そこに絆が育まれる。
ゆえに自ら自己開示するお客さんが増えてきたかどうかが、絆作りが順調に進んでいるかどうかのバロメーターになるのである。
そしてこの報告からはもうひとつ重要な気づきがある。
同店にお客さんが長年通ってくれているのは、技術面・サービス面ともに満足している証と言えるが、そんな上得意客でも、かつては自己開示してくれるような関係性ではなかったことになる。
しかし絆作りを始めて間もなくそれは醸成され始め、今ではすっかり自然なこととなった。
この例から分かることは、付き合いが何年続いている顧客だろうと、強い関係性があるかどうかは疑問だということ。
そして、そんな相手に唐突に今日から始めても、絆作りには効果があるということだ。
自己開示は人と人との距離を縮める。ワクワク系のお店や会社は、お客さんに対して、積極的かつ継続的な自己開示を行う。一般消費者でも、法人でもだ。狙いは絆作り、互いの距離を縮め、良好な関係性を育むこと。
しかしそこにマニュアルや必殺技はない。私はよく「土壌を耕す」という言い方をするが、一発ネタや一撃で土壌を耕すことはできない。
だからこそ、それが豊かに耕された関係は、こういう先行きの読めない時代にも、ひときわ強い存在となるのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。