【川崎大輔の海外コラム】ベトナム人スタッフに最高の教育を!
滋賀トヨペット株式会社は、2019年にベトナム人自動車整備のエンジニアを採用し、その後も外国人採用を続けている。10名ほどの外国人雇用で見えてきた成功のポイントと課題を常務取締役・総務部長である小澤氏に話を伺った。
一気に採用
滋賀トヨペット株式会社(山中隆太郎社長、滋賀県大津市)は、技術・人文知識・国業務(通称「技人国:ぎじんこく)の在留資格を取得したベトナム人エンジニアを10名ほど採用している。技人国ビザは実習生ビザとは異なる在留資格。大学卒業の資格が必要で、高度な専門知識と技術の裏付けがある人材のみに与えられる。就業期間や就業人数の制限もなく、専門的・技術的分野の在留資格である。
自動車整備の専門学校からの新卒採用者減少をうけ、さらに当時、外国人採用が一般的に認知されてきたため、外国人採用をスタートした。2019年にまず1人目のベトナム人エンジニアを採用してから短期間で一気に人数を増やしてきた。
総務部長の小澤氏は「想定していたよりも優秀な外国人の応募がありました。ベトナムは政情不安もなく親日だと認識していました。総じて誠実で勤勉なので、採用しました。その後も同レベルの学歴・経験・知識のある方を連続して紹介いただきましたので、多数採用することになりました。」と語る。
周知のとおり、整備士はここ数年慢性的に不足している。今後この状況が好転することはないだろう。将来を考えると、新卒採用減少を外国人採用で補い、一足先に動き始めた企業が滋賀トヨペットだ。
相互理解が重要
外国人の初選抜は担当役員による面接と適正テスト。選抜の際に重視する条件は4つ。「面接態度・受け答え・語調」「学歴と職歴」「自動車業界、当社を選んだ理由」「前向きかどうか」。選抜後のギャップや注意点などを聞くと「初めての面接時にはシャイな印象があったので、これが実際の就労後に吉と出るか凶と出るかの不安がありました。なじめるのかどうか、また、社内の受け入れ態勢にも不安がありました。しかし、いざ働き始めると、積極的な就労姿勢で馴染もうとする前 向きな姿勢が感じられました。ただ、風俗や習慣の違いから今後「仕事に対する考え方」や「お客様に対する思い」といった点で日本人とのギャップが生じる可能性はあります。日本に慣れていただく一方、我々も彼らのことを理解していくことが大切だと思います」(小澤氏)。さらに「そういう想いを持った組織であることを面接のときに伝え、安心して入社してもらう事も重要だと思います。彼らが頑張ってくれることは日本人社員への刺激ともなります」と話す。
外国人人材に対する不安
外国人人材の受け入れについて不安な点を聞くと、①日本の整備士資格がないこと、②日本の自動車運転免許がないこと、③会社になじめるかどうか、④社員の受け入れ態勢、とのことだった。それぞれの不安点について入社後どのような取り組みをしたのか尋ねると「整備士資格の有無は将来的にも大きな問題となりますので、優先課題として順次資格取得の機会をすべての外国人に提供しています。任意ではありますが運転免許も会社負担で取得を促進しています。
ブラザー制度で最適教育を
外国人人材の受け入れをうまく進めている会社は、受け入れ制度の重要性をよく理解している。滋賀トヨペットでは、新人のための「ブラザー制度」を設けている。これは先輩格の社員を担当の指導員として設定し、日常生活を含めた相談役として位置づけるものだ。
「特に今回は、ベトナム人人材に能力の高い日本人社員を付けて、仕事から日常生活まですべての相談役としました。主にOJT教育で、日常業務はもちろん、業界や風俗習慣も教育します。もちろん、社内で実施する技術研修は日本人スタッフと同様に受講してもらっています」(小澤氏)。実際にやってみて何が効果的だったかを伺うと「ブラザー制度だけでなく、店長やサービス責任者に都度ヒアリングし、状況を本社の教育担当と共有しています。好事例があれば他とも共有し、全体のレベルを上げていくようにしています。本人たちとはLINEWORKSでつながっており、仕事の報告や問題点、あるいは体調や困りごとまで、発信があれば対応するようにしています」と話す。事例の共有や、気軽な報告・相談の流れを確立し、社内でチェックと改善をスムーズにできることが重要だと感じる。
更に、小沢氏は「個人差はありますが、入社前から日本での生活をすでに経験しており、社内での生活にもよく適応できています。今後必要なのは、日本人スタッフでもなかなか合格できない「おもてなし」の実践です。必ずしも教えられてできるものではない部分であり、体得するには相応の教育が必要です」と話す。総じて、一日も早くお客様と「一人で!日本語で!」対応ができるように育て上げることを目標としている。
若手の人口が減少していく中、優秀な外国人の確保が必須となる。外国人人材は単なる安い労働力ではなく、長期的戦力として共存・共栄を考えることが重要だ。最初はうまくいかないかもしれないが、一歩一歩、受け入れ体制を構築していくことが重要だ。人が足りなくなる前に、外国人が活躍できる体制を整えられるかどうか。これが将来の生き残りを左右するだろう。
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川崎大輔まで
アセアンプラスコンサルティング代表 川崎 大輔 Kawasaki Daisuke
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。現在、レスポンスコラム「川崎大輔の流通大陸」を連載。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。