【小阪裕司コラム第130話】辛くないカレーは売れるか売れないか
【小阪裕司コラム第130話】辛くないカレーは売れるか売れないか
本日はレストランでのお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の洋食店だ。
同店はオムライスに特化した店として地元では知られているが、洋食店ゆえ、ナポリタン、カレー、ビーフシチューなどのメニューもある。そのなかで、カレーの売上が伸びていなかった。というより、ワクワク系的には、売ろうとしていない状態だった。ちなみに「売ろうとしていない状態」とは、メニューに商品名と価格、小さな料理写真があるだけの状態のことを言う。しかし、これには理由があった。彼は辛いものが苦手なのである。
シェフとて人間、辛いものが苦手なシェフもいよう。同店のカレーも自分では辛くて少ししか食べられないレベルのものだそうだが、お客さんからは「全然辛くないし、もっと辛くしてほしい」と言われて困っていた。とはいえ辛いものは作れないしと、放置されたままのメニューだった。
それを今回、ワクワク系的に改善した。といっても、もっと辛いカレーに作り変えたのではない。メニューの表現を変えたのだ。「辛いものが苦手な店長が作った、辛くないカレー」と訴求したのである。
具体的には、通常カレーのメニューにはスパイスなどの特徴が書かれているが、リンゴやはちみつ、チャツネなどを使って作った優しい甘さのカレーであり、辛いものが苦手な店長が何度も試作をして出来上がったカレーである、と訴求した。そしてこれまで「エビフライカレー」「カツカレー」としか書かれていなかった点も、「全長20センチのエビフライを2本づけ!」「生パン粉を使ってサクっと軽い食感」などと訴求した。
するとたちまち結果は出た。例えばこれまで週に2食くらいしか出ていなかったエビフライカレーは、日に2食は出るようになった。週のオーダー数で比較すると、約6倍の伸びである。
ワクワク系では、売るものは「商品・サービス」でなく、その商品・サービスが持つ「価値」であると考える。「辛いものが苦手な店長が何度も試作をして出来上がったカレー」にはそういう価値がある。従って、それを知って食べたくなり食べたお客さんが「もっと辛くしてほしい」と言うことはない。また、辛いカレーが好きな方も、かえって興味を引くだろう。「売れない」とき、いつも考えてほしいことは、商品を変えるのではなく、価値の伝え方を変えることなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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