【小阪裕司コラム第19話】「あの、おむすびあります(2)」

【小阪裕司コラム第19話】「あの、おむすびあります(2)」

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第19話】「あの、おむすびあります(2)」

前回、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員であるおむすび屋さんが、自店が出店しているフードコートと自店への集客のため、ワクワク系的手立てを打った話をした。

それは一見奇をてらったようなやり方で、フードコート案内ボード内の自店のスペースや駐車場から見えるサインに、よくある店名と料理写真でなく、「あの、おむすびあります」と書いて貼ったというものだ。

しかしこの実践は、奇をてらったものでなくむしろ緻密であると前回言ったが、それはどういうことだろうか。

ここで考えてほしいことがある。あなたは「集客」とはどんな活動だと思うだろうか?
よく「集客法」とか「集客策」と言うが、集客の本質はそこにはない。

集客とは、店で言えば、多くの見込み客に、まずは店の存在に気づいてもらい、次に関心を持ってもらい、行きたい、行かなければと思ってもらい、実際にその行動を取ってもらう活動だ。そう考えると、今回のおむすび屋さんが打った手は理にかなっている。

まずは駐車場へ向け大きく店の存在をアピールすることは、店の存在を知ってもらうことにつながる。

ただしそこに大きく「〇〇おむすび店」などと店名を書いても、お客さんの側からすれば「ああ、おむすび屋さんがあるのね」くらいの認識に終わってしまうし、その場合、おむすび屋さんを探していた人以外は反応しない。

だがそこに「あの、おむすびあります」と書かれていたらどうだろうか?
同じことはフードコートの案内ボードの改善にも言える。

そしてもちろんそれだけでは、今回の彼のように、前年比150~200%の成果にはならない。このサインや案内ボードを見たお客さんが次にどういう行動を取り、そこにどういう情報を発信すれば次の行動を起こしてくれるか、今回の実践では、先のサインや案内ボードの次、さらにその次と、手が打たれた。そしてお客さんは、あたかもそのシナリオの上を進むように、最後はフードコート内の、彼の店のカウンターまでやって来たのである。

この緻密な設計をワクワク系では「行動デザイン」と呼ぶが、ここが重要だ。
これができている、あるいはこの視点から改善が繰り返されるからこそ、「あの、おむすびあります」の一言が活きる。

また、そこに目を向けていない「集客策」は実は多く、結果、一見効果的に見える策を打っても思ったように集客できない。

すぐれた集客策とは「策」ではない。この緻密な設計力にあるのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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