【小阪裕司コラム第191話】効率を脇に置いて

【小阪裕司コラム第191話】効率を脇に置いて

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第191話】効率を脇に置いて

ビジネスというのは、常に効率が重視される。もちろん私も経営者として、無駄を省くことには大いに賛成だ。しかしときに効率を脇に置くことで、新たな価値を創造できることもまた事実。そこで今回は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員からの、ある報告をご紹介しよう。

同社は、オフィスや店舗などに水やレンタルマット、清掃用具などを定期的に届けており、そのための配送ルートがある。同社でも、かねてよりルート効率を重視し、1ルート当たりいかに多く運んで売上を上げるかを考え、無駄のないルートを常に目指していた。

その後実践会に入会、顧客との関係性を深め良い関係を維持することの大切さ、そこから得られる利益の大きさを知り、そのために必要な活動のひとつである“自己開示”を推進し始めた。

自己開示とは読んで字のごとく、自分を開いて示すこと。人と良い関係を築くための4つの要素のうちの1つだ。そのためには、今回のケースで言えば、ルート配送先でお客さんとコミュニケーションを取ることが必要になるが、社員からは「今のままではお客様と話す時間がない」と言われ、また以前から、無駄のないルート作りをすることで担当者を頻繁に入れ替えていたこと、お客さんからも「また担当替わるの?」と言われていたことにも気がついた。いずれも、それでは良い関係性は築けない。

そこで方針を大きく変更、ルート1人当たりの売上高を以前の7~8割に落とし、人員も増やし、担当者を3年は替えないこととした。そして社員には、「自己開示が大事。どんどん自分のことをしゃべってきて」と伝え、コミュニケーション重視へと舵をきった。 もちろんこれでは効率は落ちる。取引先や同業者にも「そんなに人が多いと利益を圧迫している。もっと効率よくした方がいい」とよく言われるようになったが、こうしたことで社員の気持ちの余裕が生まれ、事故も減った。そして報告書にはこうある。「お客様と会話をすることで次の営業活動につながることにも気づきました」。

同社の業界でも、昨年は値上げの波に見舞われた。なかなか値上げできない、値上げすれば顧客が離れる、解約される、他社に取られる。そういう悩みが多い中、同社ではほとんどの顧客に値上げが受け入れられ、解約率も極めて低い。この結果は、効率を脇に置いて生んだ価値の賜物である。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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