【小阪裕司コラム第232話】母が認知症になって

【小阪裕司コラム第232話】母が認知症になって

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第232話】母が認知症になって

私たちのマーケティングでは、お客さんと関係性を深め、長くお付き合いできる顧客にしていく活動は要の1つだ。私たちはこの活動を「絆作り」と呼んでいるが、これは近年提唱されている「ファンマーケティング」の実践でもある。そして、絆作り活動で必要なことの1つが「自己開示」。自分のことを「開いて示す」、自分のことを語ることだが、その具体的なやり方にはこんなものもある、という例を今日は紹介しよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、キャンプ場経営者からのご報告だ。

同社では、お客さんとの絆作りのため、持続的なコミュニケーションを取るべく、ニューズレター(以下、NL)という絆作り専用ダイレクトメールを作成し、顧客に送っている。そんな折、店主が最新号を作るにあたり何を書こうかと考え、こう思いついた。「ちょうど認知症の進んだ母が介護施設にお世話になるという出来事があり、少し躊躇しましたが、そのことを書いてみることにしました。」

やや重いテーマでもあり、極めてプライベートな内容だ。これまで長く書いてきた彼も、お客さんからの拒否反応や、場合によっては苦言を呈される、レターの停止依頼が増える、などのことがあるのではないかと心配ではあった。

しかし実際このことを書き、顧客らに送ってみると好意的な反応や共感的な声が普段よりずっと多く届いた。メールや直筆の手紙、さらにはキャンプ場に来られた方が「レター見たよ!!」とそのNLをわざわざ持参されたり、「大丈夫よ!お母さんも喜んでいると思いますよ!」「うちも親が認知症で…」といった声掛けもたくさんあった。そこでNLの次号ではその反響をそのまま掲載し、感謝の気持ちを伝えたとのことだ。

こんなプライベートでやや重い話をお客さんにしてもいいものだろうか?―そう躊躇することは自然なことだ。ビジネスにおいてこのようなコミュニケーションに慣れている会社・お店は少ないからだ。しかし実際にはお客さんの心に響く。彼も言う。「NLはお客様からの反応が必ずあるわけではありません。(中略)しかし今回の反響を受けて、意外に多くの方が読んでくれているんだなと分かりました。」

お客さんも「人」。あなたも「人」。普段からコミュニケーションを絶やさず、たわいないことも語り、ときに大事なことも語る。そうして自然と育まれていくものが「絆」なのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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