【小阪裕司コラム第286話】カボチャの折り紙が生んだものとは

【小阪裕司コラム第286話】カボチャの折り紙が生んだものとは

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第286話】カボチャの折り紙が生んだものとは

 前回、ささやかなことから「共鳴価値」を生むことを始めるお話をした。スタートはそれでいいのだと。そこで今回は、ハロウィンイベントにおけるささやかな「共鳴」の話をしよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある眼鏡店からのご報告だ。

 同店では以前からハロウィンには、店頭で合言葉を言ってもらいお菓子をお渡ししていた。今年は思うところあり、カボチャの折り紙を作り、そこにお客さんに顔を描いてもらうことを考えた。その折り紙は店頭に飾り、道行く人たちに見てもらう。それを見て「描きたい!」と希望者が現れればその人にも書いてもらう。その後ハロウィンイベント当日に再来店してもらい、飾られていたカボチャの折り紙とお菓子をお渡しするというものだ。折り紙を預かる際、当人が忘れないようイベント開催日と店名を書いた紙を渡す段取りで、もちろんその紙もカボチャの形だ。開催日は10月27日の日曜日に設定、その10日前から折り紙イベントを開始。さて、町の眼鏡店のこのイベント、どれくらいの参加者があっただろうか。

 最終的に、カボチャの折り紙は63個、お菓子は130個渡された。お菓子の数が多い理由は、当日家族で再来店した人が多かったことによる。期間中は店頭で、不安もありつつ「カボチャに顔を描いて下さい!」と声をかけると、「え~どんな顔でもいいの?」と言いながらスラスラ描いてくれる人が多く、良い発見だったと店主は言う。

 また、引き換えに渡したカボチャの形の紙を冷蔵庫に貼ったり、財布の中に入れるなど忘れないようにしていた人も多かった。当日は家族全員で来店しお子さんの描いたカボチャを探したり、写真を撮ったり、今まで来店したことのない方も来店され、みんな笑顔だった。そしてイベント終了後も、店の前を通る子供たちが手を振ってくれたり、多くの方に挨拶をしてもらえるようになったという。

 ここにも「共鳴」がある。今回、店側にも、参加してもらえるのか、喜んでもらえるのかの不安はあった。お客さん側も、同店を良く知る人ばかりではなかった。しかし参加者は多く、笑顔がはじけ、その後挨拶をしてくれるなど「つながり」が生まれた。それはこのイベントに共鳴した人たちとのつながりだ。これからの社会、このつながりが商売の基盤になっていく。だからこそ、こういうささやかな取り組みが大切なのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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