【小阪裕司コラム第285話】お客さんとの共鳴もこんな一歩から

【小阪裕司コラム第285話】お客さんとの共鳴もこんな一歩から

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第285話】お客さんとの共鳴もこんな一歩から

 今回は、「共鳴価値」をいかに生むか、の具体的な実践のお話。ちなみに「共鳴価値を生む」とは、新刊『顧客の数だけ、見ればいい』に出て来る言葉だが、こちらが発信したことにお客さんが共鳴し、「買う」という行動や、愛着、信頼などにつながっていくことだ。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある和菓子店からのご報告。

 今では共鳴価値をしっかり生み出せている同店だが、最初は「実践」というほどのものではないところからのスタートだったと店主は言う。報告によると、「初期にやったのは、ある抹茶の菓子の定価札に『娘(7才)のおすすめ!』と加えたことでした」。たしかにささやかな実践だが、それが予想以上の反応と売れ行きにつながり驚いたという。「最初は小さな小さな一歩、つまり小さな共鳴からだったと今なら分ります」。

 そういうところからスタートし、着々と実践を重ねて来た店主、最近の実践の一つは「ごめんなさいチケット」だそうだが、それは次のようなものだ。朝作りの生菓子(お団子、草餅など)を、お彼岸などの催事や天候不良、自身の体調不良などでお休みすることがある。もちろんSNSなどで当日告知するのだが、限界があり、生菓子目当てで来てくれたお客さんに申し訳ないという気持ちが常にあった。

 そこで「ごめんなさいチケット」だ。朝作りの生菓子を買いに来られたお客さんに、「お団子、草餅<お休み>ごめんなさい!次回、朝作りの生菓子を1つ差し上げます!」と書かれたチケットをお渡しするのである。行ってみると、お客さんの反応は上々。そんな店主の思いや一工夫に共鳴するお客さんが数多くいた。また店主はこうも言う。「これで不機嫌になるのなら、当店とは共鳴できないということですから、これ以上はできない。そのように良い意味で割り切ることもできそうです」。

 「共鳴価値」と聞くと、そんなことが自社・自店でできるのだろうかと案じる方がいるかもしれないが、「娘(7才)のおすすめ!」的なことから始めればよいのなら、およそ誰にでもできることではないだろうか。そうした「小さな一歩」から、「お客さんと共鳴するってこういうことなんだ」「こうすればいいんだ」が分かって来る。どんなことも小さな一歩から。そこから始められる人に商売の女神は微笑むのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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