【小阪裕司コラム第288話】無理をしなくても収益は上げられる

【小阪裕司コラム第288話】無理をしなくても収益は上げられる

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第288話】無理をしなくても収益は上げられる

 師走もたけなわ。忘年会シーズンゆえ、特に飲食店経営者は忙しくされていることだろう。飲食店は私が主宰するワクワク系マーケティング実践会にも多い業種の一つだが、今回は会員のある飲食店からの報告をご紹介したい。

 20年ほど前のこと。同店は現在の場所で、沖縄料理店と居酒屋を営んでいた。当時、沖縄ブームで沖縄料理店は大人気。深夜まで満席の状態が続いていたと言うが、その頃、12月の売り上げが2店舗合わせておよそ560万円となり、過去最高を記録した。その後その記録は破られることなく、店主も19年間、「またあの当時くらいの売上にならないかなぁ」と思っていたという。

 とはいえ彼も、「それはバブルの夢みたいなもので、もう2度とない」とも思っていた。また当時は彼と正社員が4人、アルバイトが3人の8人体制で深夜2時までの営業。朝までの営業もしばしばあり、休みも定休日だけで毎日クタクタになるまで働いていた、そんな中での記録だった。

 その後売上はどんどん落ちていき、それに伴いスタッフも減り、当会に入会した頃には、店主と奥さまにアルバイトを加えた3・5人態勢になっていた。その頃を店主は、「経費を削って休みをできるだけ少なくし、できるだけ長く働く。それが僕のできることでした」と振り返るが、体力の限界を感じ、将来に不安を感じていたと言う。

 その後、顧客増、客単価増に伴い売上は上がり、休みを増やし、営業時間を少なくしていきながらも、昨年の12月には、ついに「バブルの夢」だった当時の売上を軽く超える、2店舗で700万円を達成した。しかも、店主と奥さま、アルバイト2名の4人体制での達成、当時の半分の人数での記録超えだ。この体制も「無理をして削っているのではなく、最終入店時間を20時半としたことで、21時過ぎには、僕がホールを回ってお客さんとお話しできる状態」とのこと。

 彼が証明してくれたことは、営業時間を短くし、無理をしなくても収益は上げられるということだ。コロナ後、飲食店に客が戻らないと言われる今日でも。そうなることで、心身ともに余裕も生まれ、それがまたお客さんに次の〝ワクワク〟を提供できることにつながる。飲食店に限ったことではないが、来年に向け大切なことは、自社・自店をこの循環に乗せることだ。

 師走真っ只中の全国の飲食店オーナーに伝えたい。あなたたちのおかげで、私たちには心豊かなひとときがある。これからも元気に商売を続けてもらいたい。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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