【小阪裕司コラム第321話】「飲み放題」をやめたら…その後

【小阪裕司コラム第321話】「飲み放題」をやめたら…その後

今回は、前回ご紹介した、何気なく行っていた「飲み放題」をやめてみたら売上が5倍になったお話の続き。実践会員の、沖縄の飲食店併設ゲストハウスからのご報告だ。同店名物の「ゆんたくタイム」。そこで、泡盛1 杯400円での提供に加え、何気に行っていた飲み放題2時間1500円。それらをやめ、泡盛の価値を語るよう切り替えたところ、酒類の売上は5倍になった。
実は、店主の工夫は前回ご紹介したこと以外にもある。例えばその一つは泡盛の「出し方」だ。ある銘柄は、泡盛をウイスキーのオーク樽に貯蔵して作ったお酒で、普通泡盛は無色透明だが、この銘柄は琥珀色。それをグラスに注ぎ、出す際に後からライトで照らし、この酒が作られたバックストーリーを語る。すると、お客さんはみな覗き込んで喜ぶという。
このアイデアは、同じく実践会員のバーが行っていることを真似たものだ。そのバーではバカラのグラスにウイスキーを注ぎ、お客さんに上からのぞき込むよう促し、マスターの次の一言が添えられる。「グラスの中に万華鏡が現れます」。これを真似たものだと、ゲストハウス店主は言う。 前回ご紹介した「シークレットメニュー」にしても、店主にはもう一歩の工夫がある。何気に続けていた一杯400円での提供や飲み放題をやめ、一品一品の価値を語るようにするだけでなく、お客さんの体験価値を高めることを考えているのだ。

こうして高められた体験価値をひとたびお客さんが受け取ったとき、どんなことが起こるだろうか?まずは、飲んだ泡盛をお土産に買って帰る人が増えた。次の日の朝、近くの市場にある酒販店に行き、利き酒コースで気に入った銘柄のボトルを買って来るのである。その姿を見ると微笑ましくなり、泡盛に貢献できたという喜びも湧くと店主は言う。
また、こんなことも起こるようになった。ビジネス出張で宿泊されたあるお客さんが、当初2泊の予定を5泊に延長。主な理由は仕事のスケジュールだったが、延長する際そのお客さんはこういったのだ。「これで全銘柄飲める」。そして実際1日に3種類程度の銘柄を注文し続け、5泊の間に見事に11種コンプリートされたとのこと。
前回に引き続きもう一度言おう。お客さんはこのような体験を待っている。たしかに少々手間はかかるだろう。しかしその代わりあなたの店には、喜びがあふれ、ファンが増えていくようになるのである。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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