【小阪裕司コラム第320話】「飲み放題」をやめたら売上5倍に

【小阪裕司コラム第320話】「飲み放題」をやめたら売上5倍に

今回は、何気なく行っていた「飲み放題」をやめてみたら売上が5倍になったというお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、沖縄の飲食店併設のゲストハウスからのご報告だ。
同店には、名物の「ゆんたくタイム」というものがある。それはお客さんが店主と語らいながら、沖縄当地のお酒である泡盛を味わう時間だ。同店では1 杯400円で提供し、近年までは特に考えることなく飲み放題2時間1500円のコースも用意していた。大体3~4杯くらいでお客さんも満足するため収益もまあまあ。しかし、思うところあってこのコースをやめようと決意した店主。それに代わる商品をずっと考えていた。
結果生まれた新メニューは「泡盛利き酒コース」。と言っても泡盛メーカーは50社近くあり、銘柄となると数百あると言われる。すべてを揃えるわけにはいかず、11 銘柄を厳選。「オーソドックスな泡盛 味比べコース」「沖縄本島中部のこだわり泡盛 味比べコース」「同じメーカーでも味は違うのか?『残波』グレード別 味比べコース」の3つのコースに仕立ててリストにし、各銘柄を説明。その中からお客さん自身に選んでもらうスタイルにした。

店主からいただいた報告資料には実際の各コースのメニューブックも添付されていたが、各泡盛とその特徴が詳しく書かれたなかなかのもの。さらには、このメニューブックを読んでからオーダーするとお客さんにとって「利き酒」にならないかも、という考えから、わざわざ店主の解説部分を隠したメニューブックを用意し、まずはそれを渡すという念の入れよう。解説を予想しながら選ぶゲーム性も手伝って、大変好評だ。
価格はと言えば、このような形式にしたことで希少銘柄も交じり、一杯千円を超えるものも。始めてみると高価なものは人気があり、「これまで一杯400円で売っていたのは何だったのか」と店主。結果的に酒類の売上は、飲み放題の頃と比べると、およそ5倍になったとのことだ。
「飲み放題」や安売り価格、それらが悪いわけではないが、何気なく行っている、以前からやっていたので続けている、そういうことはないだろうか?そういう方は、「何気なく」をやめて、今回の店主のように、一工夫して価値を伝えてみよう。なぜなら、この例が物語るように、お客さんはそれを待っているのだから。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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