【小阪裕司コラム第316話】「成果の出る接客」とは2

【小阪裕司コラム第316話】「成果の出る接客」とは2

今回は、前回の続き。ワクワク系マーケティング実践会員のあるリサイクル・リユース店での、「成果の出る接客」のお話だ。それを生み出した店長が店頭で何に気を配り、何を行っているかは前回お話しした。秀逸なのは、お客さんが入店する時点から接客の準備に入っていることだ。挨拶や会釈、掲示物を分けて掲示しお客さんの目線を追うなど、着眼点が鋭い。
さらには、「どんな感じですか?」という、あいまいな声のかけ方だ。多くのお客さんは、強く売り込まれるのを無意識に警戒する。その警戒心をMAXにしてしまうのが、「○○をお探しですか?」という言葉だ。私もそうだが、実際それを探して売り場にいても、この言葉を言われた途端に身構える。そしてつい「大丈夫です」と言ってしまう。それが「どんな感じですか?」と聞かれたとき、多くのお客さんは、返す言葉が変わる。「実は○○が気になっていて」や「ちょっと教えてもらえますか?」と返してくれるようになるのである。
そうなると接客はがぜんスムーズに運ぶが、彼はそこでもまだ売りたい商品を薦めず、お客さんの購入・利用理由などできるだけ情報を引き出すことに努める。そうしてお客さんの真の要望を把握し、それに寄り添った上で、最後に2ランクほどアップした商品を提案するのだ。それが双方に良い結果を生んでいることは、好調な売上とお客さんの高い満足度からうかがえる。

また同社では、この成果を他のメンバーや他店も活用している点も素晴らしい。例えばある新人社員からの報告によれば、この店長がやっていることをできるだけ忠実に再現したところ、お客さんの反応は大きく変わったという。彼は、入店の挨拶・会釈の際に会釈を返してくれるお客さんは購入意欲が高いと体感を語るが、接客に不慣れな自分もいい感じの接客ができてきたとのことだ。
ところで、この「成果の出る接客」のカギは何だと思うだろうか?巧みな声かけの言葉、様々な掲示物の工夫。それらも確かにそうだが、一番のカギは「お客さんをよく観る」ことだ。先の店長は入店時から始まって、とにかくお客さんをよく観ている。ゆえに掲示物などの工夫も思いつく。それは売らんがためでなく、前回お伝えした、お客さんに良い買い物をしてもらうためだ。その気持ちの上に立って「お客さんをよく観る」こと。それがここでの成果のカギ、誰がやっても成果が出るカギなのである。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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