【小阪裕司コラム第326話】商売の“遊び心”が連れてくるのは

【小阪裕司コラム第326話】商売の“遊び心”が連れてくるのは

今回は、法人向けがメインの会社での、個人向けの取り組みやちょっとした遊び心がお客さんとの関係性を深め、ときとして新規のお客さんを連れて来る、というお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、食品卸売業の会社からのご報告。
同社は法人への卸がメインだが、個人向けのビジネスも行っている。それは、同社が扱っている冷凍食品の直売だ。コロナ禍の際、行き場を失って廃棄寸前となった冷凍食品を近隣の住民に買ってもらったことがきっかけだった。現在は、賞味期限が近い冷凍食品を有効活用する趣旨に変わり、年に2~3回、直売会を行っている。
この直売もここ5年で進化を遂げ、直売会専用のLINEのアカウントもでき、近隣の主婦層を中心に200人以上が登録済み。開催時期も7月、12月、3月の土日になった。その理由は、近隣のお母さんが頭を悩ます学校の休み中のランチメニュー問題の解決だ。これらの進化の結果、直売会には多くの人が訪れるようになった。

そこで発生したのは待ち時間問題だ。同社の本業は小売りではないため、店頭に冷凍食品をストック・展示するスペースはない。一人ひとり対応するため長蛇の列となり、最近では1時間待ちになることもあったという。
そこで、遊び心で考えた。同社のメイン商材は“粉もの”の材料だ。これからたこ焼き屋やたい焼き屋を開業する方のために、研修ができる設備もある。それならば、とそれらの焼き台を展示し、触り放題としてみた。すると、大人も子供も「楽しい!初めて触った!」「たい焼きの板って軽い!」など大いに盛り上がり、会話が弾むようになった。それをきっかけに、そもそも近隣の方には知られていなかった本業の話もできるようになった。
そんなある日、直売会を訪れたのは二人の男性だった。「LINEを見て来たのですが…」と渡された名刺を見ると、県内で飲食店を多数展開している会社。これからたこ焼きも展開したいということだった。ちなみにそのLINEはその方の奥様からの情報だった。コロナ禍に始めたこの取り組みが、まさかこのように広がるとは、と社長も驚く。最近では「平日もやってほしい」との声も多く、平日販売も始まった。「これからも新しい出会いを期待して」とは社長の談である。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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