【小阪裕司コラム第35話】ヴァイオリニストのマーケティング実践
【小阪裕司コラム第35話】ヴァイオリニストのマーケティング実践
ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員に、ある著名なオーケストラの2ndヴァイオリン副首席演奏者がいる。
なぜそのような人がワクワク系を学ぶのか?と思うかもしれないが、実はワクワク系を学び実践しようとする方には、アーティストや職人さんは多い。
なぜならワクワク系は、自分の価値を最大限に生かし、世に問い、そこに商売をはさんでちゃんとお金にして食べていく、という営みゆえ、アーティストや職人さんたちとは相性がいいからだ。
そこで彼だが、彼が今回取り組んだのは、その営みのなかでもかなり具体的なもの、自身が深く関わっている弦楽四重奏の演奏会の告知広告の作成だ。彼の仲間も含むレベルの高い演奏にお酒にこだわった飲食付きの特別な演奏会だが、集客に悩んでいた。
その初回はワクワク系を学ぶ前のこと。30人は入れる会場だったが、2週間前になっても10人にも満たない状況で、「こんな恐ろしいことがあるのか…」と思ったとのこと。
2回目は実践会入会後、ワクワク系でのセオリーを押さえながら考えて作ってみると、問い合わせは徐々に増え、3回目の演奏会では満席になり、4回目にはキャンセル待ちが出るようになった。
4回それぞれの広告紙面を比較してみると、初回のそれは、デザイン的には最も美しくできているが、どんなイベントなのかイメージがつきにくい。文字と共に幾何学的な模様がレイアウトされているが、紙面上に楽器もなければ、お酒もなく、人もない。
それが2回目になると、小さくはあるが演奏者の写真やお酒の写真などが入り始め、3回目はもっと人が出て、演奏者である彼らが楽器を持って立つ写真(しかし、演奏会的な服装でなく、カジュアルなTシャツで)が大きく前面に。
キャンセル待ちが出たという4回目のそれは、ベンチに座って美味しそうに食べる彼らの写真がメインになり、楽器はついにそのかたわらでケースに入ったままの写真となった。
ここでの主な学びは2つある。1つは今お伝えしたように、美しいデザインと人の心が動き、行動(この場合は「演奏会に行く」という行動)が生まれるデザインとはしばしば異なるということだ。
もちろん、美しい上に行動が生まれるものもあり、それならば最高だが、まずはこの「異なる」ということを知っておくといい。
もう1つの学びは、彼の姿勢にある。冒頭で言ったように、ヴァイオリニストと
いえども音楽以外のことで学ぶべくを学び、実践する必要がある。
しかし、アーティストはおろかバリバリの商人でさえ学ばず実践しない人も多い。
ただ、それでは自身の価値を世に問えない。ひいてはビジネス上の結果も生み出されてこないのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。