【小阪裕司コラム第70話】この発想と成果の源は2

【小阪裕司コラム第70話】この発想と成果の源は2

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第70話】この発想と成果の源は2

前回ご紹介した、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のある金物・雑貨店主が着想を得たという2つの事例。

そのうちの「あるバーにおける名札の取り組み」は、以前このコラムでもご紹介したが、改めてご紹介しよう。

それは、「名前を書かない名札」。
では何を書いているのかといえば、例えば店主の名札には
「鶴は千年、亀は万年、僕はバーテンダー歴30年」「趣味 極真空手」、
マダムの名札には「昔雅楽やってました」などとある。

これならまだ自己紹介なので名札的とも言えるが、「国産ライムはジントニックでしょ」といったドリンクメニュー関連ものや、「朝カレーしませんか?」といった他の商品もの。

さらには「お盆は休まず営業します」といった告知ものや、「今、洗濯機壊れてます!」といった、商品でも告知でもないものまで実に多彩だ。

ちなみに、最もウケたものは「今、洗濯機壊れてます!」。
これはマダムの名札だったが、来店客に大いに話しかけられるきっかけとなった。

このユニークな名札の狙いは、店主によれば「名札を名札として使わずコミュニケーションツールとして使うことにより、こちらから会話の糸口を切り出さずして、お客様に興味を持っていただく」。

その道具として名札は最適であり、そうして興味を持っていただいたり、「実は僕も極真空手、習ってました」などと共通の話題が見つかれば、初対面でも話は弾み、住所・氏名などの個人情報もいただきやすくなるとのことだ。

もうひとつの、漬物店における商品ラベルの取り組みも狙いは同様。こちらは商品に貼られている、通常は材料や消費期限などが書かれたラベルのスペースの一部を利用して、お客さんとのコミュニケーションを意図したメッセージを記載、発信した。

さてここで、前回ご紹介したラベルの事例を思い出してほしい。
これらは一見、場面もツールも異なるが、似たところはないだろうか?
そう。お客さんとのあらゆる接点・機会をコミュニケーションに活かそうという発想。

そして実際に、名札や商品ラベル、お買い上げのお印など、ありふれたものを見直して、活用していく着眼点である。

しかしこういう取り組みはユニークで、一般的ではない。参考にする“考える材料”がなければ思いつくことは難しい。そこで重要なことは、いつも考える材料をインプットしておくことであり、その最良のもののひとつは他社の具体的な事例だ。

そしてそれには、事例が多く集まる「場」――物理的な場とは限らないが――に参加し、自然にインプットできる環境に身を置くことだ。

ラベルの取り組みの店主は、まさにそのなかで2つの事例を知り、インプットしておいた。それが今回のような発想と成果を生み出していくのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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